2023/10/29 かにかまりんご
食文化と言うものは、時折思いもよらない組み合わせを生み出すことがある。
まずアップルはエルフ族が多く住まう帝国にとって最もポピュラーな果物だ。
続いて|クラブ《カニ》。これも港を持つテピールにおいては一般的な魚介類だ。
最後にマヨネーズ。これは一番最近、そしてここテピールにて生まれた最先端の調味料だ。
この三つを組み合わせたものがまずいわけがない。まぁそんなわけで、ほぐしたクラブの身と刻んだアップルをマヨネーズで和えたものが登場したのはさほど遅くはなかったのである。
「で、それがこれかい?」
「おう! 話題沸騰中のテピールサラダだぜ!」
帝国のとある町に訪れた際、そう言って差し出されたものに、ヴィクトルが興味津々に覗き込んだ。ユリオは「アップルと、クラブ?」と、目の前で手を打たれた猫科の動物みたいな顔をしている。
「うーん、クラブの甘みとアップルの酸味はマヨネーズがまろやかにしてくれているし、シャクッとした歯触りもいい。けど、なんか足りないねぇ」
「パンチが足りねーな」
もしゃもしゃと食べながら言う二人に、オタベックと勇利も顔を見合わせて手を伸ばす。
「確かに、美味しいですが、少し物足りませんね」
「これあれだ。これ入れたらいいんじゃない?」
勇利はそう言って|魔術的隔離空間《インベントリ》から黒い粒々を取り出すと小さなすり鉢で潰し、パラパラとサラダに振りかけた。ふわりと漂う香りにユリオが呆れた顔をする。
そんな反応にお構いないなしで混ぜ合わせた勇利が再び咀嚼し「うん」と満足げにうなずく。
「カツ丼、お前なぁ」
「今この瞬間、値段が跳ねあがりましたね」
「でも、味が引き締まって美味しいよ!」
「そりゃな!」
にっこりと笑うヴィクトルに、「胡椒とかアエスのごく一部か南大陸でしか手に入んねーんだわ」と、言いながらフォークをサラダに突き刺し「ちくしょううめぇな!」と叫ぶユリオだった。
「でも勇利、よく胡椒とか手に入ったね」
「ピチット君、アエスの伯爵家の相談役だから」
「あーなるほど」
勇利の親友だというホビット族の青年の名前と身分に、ヴィクトルたちは納得したようにうなずいた。それはともかく、ヴィクトルから話を聞いたヤコフとリリアがアエスとの貿易品を増やそうかどうか悩むのだが、それはまた別の話である。
「間に二国挟むので、値段としては南大陸と変わらないわね」
「しかし、リスクは格段の低い」
魔石による高速船があるとはいえ、五回に一回は荷物を失うと言われている船旅である。もちろん陸路や沿岸輸送でも魔物に襲われるリスクはあるとはいえ、大陸間貿易よりは格段に低い。帝国貴族としてどうするか。それに頭を悩ませることとなるのである。
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