きょうはなんのひ、すてきなひ

アイカツスターズ きらあこss。
5月23日が何の日かというお話です。
きらあこちゃんは同棲しています。


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「はい、これ!」
 意気揚々とそれを差し出されて、あこは目をぱちくりさせた。渡してきた当人は相変わらずふわふわした笑顔を浮かべている。
 それはシンプルな白い洋型封筒だった。赤いハートのシールで封がしてある。今度は一体何を思いついたのやらと半ば呆れながらも、あこはそれを受け取った。そしてそのまま開封しようとする。
 と、きららがなぜか全力でそれを止めてきた。
「まだ開けちゃ、メェ~ッ! なのっ。あとでひとりのときに見て!」
「渡しておいて何なんですのよ! シャーッ!」
「だめなものはダメェ~ッ! なの」
「一体、何だっていうんですの……」
 ムッとしたあこにきららはやっぱり笑みを浮かべながら言う。
「今日が何の日かっていうお話だよ♡」
 人差し指を自身の唇にあててウインクを一つ。
 それだけ言い残すと、きららはさっさと出掛けて行ってしまった。

 今日のあこのお仕事は自分の冠ラジオ番組の収録だ。スタジオに向かう電車にゆられながら、鞄の中に入れておうた封筒を取り出した。そこには、誰が見ても分かるような、特徴的な彼女の丸っこい文字でこう書きつけてあった。

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♡あこちゃんへ♡

きょうは暑くなるみたいだね!
すずしい場所が一番だけど、あこちゃん
しゅうろくだっけ?こまめに水分補給だよ!
よるまでにはきららも帰るから、
うちカフェ♡ってことでお惣菜買っとくよ。
ねるときはいっしょだからね

♡きららより♡

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「なんですの……?」
 読み終わってみて、あこは余計に分からなくなった。意味深にこんな手紙を渡しておいて、内容はというと、仕事がどうとか、夜には帰るとか、お総菜を買ってくるだとか。本当になんてことないことばかりだ。
「そういえば、今日は何の日、だとか言っていましたわね……」
 脳内コンピューターをカタカタカタといわせて、ピンポン! と弾き出す。
「5月23日は……恋文の日、ですわっ!」
 だから手紙なのか、と一瞬納得しかけて、あこはすぐにまた首を傾げることになった。確かに封筒や便せん、封のシールのデザインは可愛らしいものではあるが、恋文というには中身の内容が相応しくないように思える。
 手に持って、もう一度じっと見て、それからぐっと腕を伸ばして距離を取ったり、裏返したり、窓から入ってくる光に翳してみたり。それでもやっぱり分からなくて、気付けばもう降りるべき駅だった。
「もうっ、どうしてわたくしがこんなものに振り回されないといけませんのよ!」
 言いながら、慌てて手紙を封筒に綺麗にしまって、電車を降りた。

 無事にラジオの収録は順調に終わった。もちろん水分補給は完璧だ。それから学園に戻ってS4での打ち合わせと劇組公演の準備などを着々とこなしていき、全ての予定を終え、夕方には帰路に着いた。
 玄関をあけると既にきららの靴があった。
 ただいま戻りましたわ、と言うと、おかえり♡あこちゃん♡といつもの声が返ってくる。それから予告通りきららが買ってきたおしゃれなお総菜を綺麗に盛り付けて映えた写真を撮って、おいしいねって言い合いながら食べた。何の変哲もなく。
 二人で食器を洗って、蛇口をしめたところで、あこはしびれを切らして言った。
「で、結局何でしたの、あの手紙は?」
「や~ん♡そんなに早速~? きららまだ心の準備が整ってないよ~♡」
 怪訝な顔のあこに対して、きららは頬を赤らめて身体をくねらせた。
「にゃ!? まさか破廉恥なことなんですの!?」
「え……?」
 あこの反応に、一呼吸おいてきららが真顔になる。そして信じられないというように目を見開いた。
「あこちゃん、まさか、あの手紙の意味、分からなかったの?」
「だから手紙でしょう? 今日は恋文の日ですものね。それですのに、別になんてことない内容だったじゃありませんの」
 鞄の中から改めて手紙を取り出して答えた。あことしてはそれは至極真面目に考えて言ったこと。それなのに、きららは不満たっぷりに思いっきり頬を膨らませた。
「ちがうもん! ちゃんと恋文っぽさあるもん! それに、今日は恋文以外の別の記念日でもあるんだからねっ!」
 そうして、きららは手紙にこめたメッセージの、その該当列を指でなぞる。
「ほら、こういうこと」
「あ……」
 あこの顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。
「あ、あにょ、きらら、今日が何の日かって、もう一つって、もしかして……」
「そ。こーゆーこと♡」
 唇の上に、柔らかい感触。
 そうして訪れたのは、あまくてやさしくてふわふわに愛しい夜なのだった。

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