付き合ってるの、/ひなやち(2024.4.30)

「ねね、日向くん」
「? おう」
「谷地さんと山口くんって付き合ってるの? 最近よく話してるよね」
「つ、きあってはない……って、言ってた」
「あ、そうなんだ?」
「山口、キャプテンだから……いろいろ、試合の日程とか段取りとか。で、よく話してるんだって」
「へ〜? でも、それって付き合ってない根拠ではなくない?」
「いや! えっと……その、本人、たち、が言ってた! から!」
 ふぅん? と、首を傾げたクラスメイトたちは、日向に礼を述べて廊下を歩いていく。眉間に皺を寄せる日向に、背後からぬっと影が差す。
「谷地さんと付き合ってるのはおれだよ、って言えば良かったんじゃない?」
「つっ……きしま! 言わない!」
 周りを見渡し、誰も聞いていそうにないのを確認して胸を撫で下ろす。約束したから、と小声で告げると、そ、と一言で返された。月島は思うところがあるようで、去っていく女生徒たちを眺めながらため息を吐く。
「ま、日向には嘘とかつけないし最善か……」
「なにが?」
「こっちの話」
 頭にクエスチョンマークを浮かべたまま、月島の不機嫌そうな表情を見上げる。視線の先には山口が居て、さっき鳴った昼休み開始のチャイムの後から山口を待っているのだろうと察する。手に取ったプリントをお互いに受け渡しした谷地と山口が不意にこちらに気付いて手を振った。軽く振り返して、日向はむむむと眉間に皺を寄せる。
 三年になってクラス替えもあり、これまで接したことのなかった同級生に興味を持つのはわかる。けれども、なんだかよくない形で仲間への関心が寄せられているのは不思議と気分が良くない。まぁ、確かに、谷地と恋人関係にあるのは日向だし、デートはまだあまりしていないけれど、ほとんどバレーの話しかしないとはいえ最近は帰る前にちょっとふたりで話したりもするし、その、まぁ。
 依然話し込むふたりを、早く終わらないかなと思いながら眺める。付き合い始めてから、昼ご飯は一緒に食べませんか、と、谷地が顔を真っ赤にしながらいつもの勢いのある謙遜とともに告げてきたものだから、日向にはそれを拒む理由はなかった。かくして弁当を持って進学クラスの前に立っているのだけれど。
 山口と話しながらも、ふわりとほころぶ花のように笑う谷地を見ているとどうすればいいかわからなくなる。いますぐ走っていって、いちばん近くで見たいと、思う。
「見すぎデショ」
「うっ……」
 月島は眉間に皺を寄せたまま言う。指摘は事実だけれども、目を離せない、離したくないような気持ちを感じているのだから仕方がない。
「けど、月島も見てるだろ」
「僕は谷地さんを見てるわけじゃないケド?」
 それはおれでも分かる、反論する声を押し留めたのは「待たせてごめん!」とこちらに駆け寄る山口だった。いつもの皮肉を口にしながら月島はしらっとした顔で山口の隣に並び立つ。ちらりとこちらを見遣る、そこに含まれた意味を読み取れないまま、日向も谷地と廊下をともに歩き始めた。
 
 

「そんなこと言ってると谷地さんが他のやつに取られるんじゃない」
「でも谷地さんがかわいいのは事実じゃん」
「ああそう」
「山口がかっこいいのも事実だし」
「それはそうだけどだから嫌なんだろ……」
「……うーん?」

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