アイツとおれの情事と事情
初めて事に及んだのは真夜中のサニー号、食堂の硬いフローリングの上だった。
ソファとダイニングテーブルの間に大の男が重なり腕や足をガンガンぶつけながら、ローはゾロよりいくらか身長が高いだけだというのに、押し潰すように覆い被さり身動き取れなくして(元よりゾロに逃げる意思はなかったが)ゾロの片足を軽々抱え上げてガツガツ突いてきた。
ゾロが忘却の彼方に手放していた交接の痛みを思い出すには充分だったが、イイトコで「あっ」とかわいい声が上がるやそこばかり狙って擦り上げるから、ゾロは別の動揺でバンバンと肩を叩いてしまった。
「ゾロ屋? すまない最初からがっついて……」
ローの謝罪はぶっちゃけ口だけだった。
涙が目尻を伝って初めてゾロはマジかよと掌で雑に拭ってぷいと顔を逸らせたのに、目元をペロリと舐めたローは先の言葉を吐いて、また乱暴に肌をぶつけてきた。
ゾロの文句を言う筈だった口からはひっきりなしに善がる声だけ、もうどのくらい揺さぶられていたのか全くわからなかった。
事の起こりはローが何の音も気配もなくゾロが寝ているボンクの前に突っ立っていた所からだった。
能力で忍び込んだと後からゾロは気づいたが、遅れをとったことに頭がいっぱいで舌打ちすると素早く体を起こした。刀の位置を横目で確認する。ローのことを信用した自分が馬鹿だった。その時は大いに後悔したが、ルフィの命を救いルフィが「ありがとう」を二度も繰り返したこと、敵へ向けた殺意は本物だったから油断した。ローとは二年前の三船長共闘を経て今回パンクハザードで遠目に認識したのが二度目、ゾロにとってはどちらもただの偶然だった。それが今や同盟相手の海賊は、目の前で毛を逆立て威嚇してくるゾロの手首を何の躊躇もなく掴み、何か呟いたと思ったら薄暗い食堂に移動していた。そうかコイツの能力だったんだとこのとき気が付いた。
一体全体、なんなんだ。ルフィの首を獲りたいわけでもないらしい。
「離せよ!」
ゾロが手を振り払うとローはちょっと眉根を寄せてじっとゾロを見つめてきた。殺気は感じないのでひとまず警戒を緩める。するとローがとんでもないことをゾロに言ったのだ。
「抱かせてくれ」
「……………は?」
たっぷり思考停止してから間抜けな声が漏れた。「ハグ?」「ではない」「じゃあアレか」「アレとは?」「セッ、セ、セッ…」「クスだ」とバカなやり取りもした。意味がわからない、どうかしている。
ローが一歩詰めてきたのでゾロは不覚にも一歩下がった。ローの目は真剣だったが、どこか別次元を見ているようにうつろだった。
ふむ、成程な……最悪こりゃあ寝ぼけてんな?
「よし、まぁ落ち着け。一旦理由を聞かせろ。そうだな……酒でも飲みながら」
飲んで愚痴でも聞いてやりゃ正気に戻るだろう、ゾロはこの状況を楽観視した。
ローをソファに促すと、ローはキャスケットを取りテーブルへ放った。それからソファにどさりと座る。無駄に足が長い、てのはおいといて顎髭を擦りふううと息を吐く様子によしよし目が覚めてきたなとゾロは安直に思った。
酒瓶を二本持って片方をローに渡し、ゾロは立ったままゴクゴク呷る。夜中にこっそり頂く酒はウメェ。
室内の明かりを互いの顔が見える最小限にしても丸窓から差し込む月明かりは煌々としていて、瓶に口を付けるローの横顔がよく見えた。
実は初めてローの顔をまともに見たし口を利いた。なぜ自分なのだろうと不思議に思ったが、女部屋に夜這いされたりルフィに手を出されるよりはよっぽどマシ。明日(もう今日だが)の午後三時にはドレスローザに到着する、それまでは構ってやるかとゾロは腹を決めた。
「眠れなかったのか?」
ゾロが男部屋に入る頃には甲板でぐっすり眠っているように見えたのだが。やはり興奮しているのだろうか。
「アイツの声を思い出したらイライラしてきてな」
「ドフラミンゴか? 懸賞額は元三億四千万。ちなみにお前のも知ってるぞ、四億四千万。七武海になったんなら元だな」
「なんで……」
「高額賞金首の手配書を見るのがクセになってんだ」
カラリとゾロは笑った。ローはちょっと目を瞬くと、あぁ海賊狩りだったなと小さく笑んだ。
「ドフラミンゴの本性が闇のブローカー〝ジョーカー〟か。トラ男の上司だったんだろ?」
「麦わら屋に聞いたのか」
「いや、ルフィは過去のことァ気にしねェよ。お前が『敵だ』と切り捨てた連中がお前をジョーカーに盾ついた裏切り者だと言ってたからな、連想した。トラ男お前、ドフラミンゴと何があった?」
「単刀直入に聞きすぎだろう。施術前のカウンセリングか?」
「なんだそりゃ」
「十三年前、大事な人を殺された。それだけだが、それ以上のもんは今のおれにはねェ。あの人はおれの全てだった……おれは死んでもアイツを殺す」
ローがギリと奥歯を噛み締めた。「死んだら殺せねェぞ」とわざと肩を竦めて言えば少し間を置いて「そうだな」と返った。そのことに少しの違和感を覚えたが、まさか本当に話してくれるとは思わず意識を持ってかれた。これも交渉材料って訳か、絆されたら喰われそうだ。
「四皇を落とすって作戦はハッタリか?」
「これはその過程だ」
「ならいいが……。トラ男の大事な人ってどんな奴だったんだよ」
「図体も懐もデケェ、倍も歳上の男だった。気に入らねェと爆破するし死ぬほどドジだし笑った顔が怖かった」
「悪口……?」
「確かに悪口しか出てこねェかもなぁ」
くつくつとローは楽しそうに笑った。付き合いは数時間だがあまりしない顔だと思えた。それからローは酒を一気に喉へ流し込むと空瓶をダンとサイドチェストに置き、両手で目を覆って俯いた。
まさか、泣いてねェよな? とゾロも酒瓶を置いてその顔を覗き込めるよう隣に座り、邪魔なローの襟首のファーを指で掻き分けた。
「トラ男?」
「……ゾロ屋……」
「ん?」
ローがゆっくりと顔を上げ、横にいるゾロをジト目で見てきた。首を傾げるとゾロの三揃いの金ピアスがちりんと鳴る。不意に顔を寄せて来られてゾロは咄嗟に俯いた。キスするつもりだとわかったからだが、ローの高い鼻がゾロのデコにコツンとぶつかってハッとしたのかローは体を離した。
「わ、悪いゾロ屋っ、今のは違うんだ。いや違わねェけど……」
「あーおれも悪かった。条件反射っつーか、別にダメな訳じゃ――」
何言ってんだダメだろ、と頭の中で否定したがもう遅かった。ローにソファへ押し倒され唇を奪われた。舌を捩じ込まれて口の中を巧みに舐められながら、ローはゾロの長着の胸元へ手を入れて鍛え上げた胸筋をきつく揉んできた。待て、と言おうとしたら「まへ」になって羞恥する。いや男なら知ってんだ、こんくらいで狼狽えてどうするよ? ゾロはまだ名もない剣士のころ少しだけ体を使って寝床と酒代を確保していた時期がある。あんなのは作業だったから快感もクソもなかったが、一応は経験済みの体。故にローに「抱きたい」と乞われて無碍に断らなかったのだった。
少々、組んず解れつしていたらドンと床に落ちた。階下のアクアリウムバーにいる連中に気付かれたらとヒヤヒヤしたがその気配は幸いなかった。寝落ちてしまったのだろう。
ローに諦める様子は全くなく、ゾロは早々に覚悟を決めた。ローの弱みとも言える過去を聞きたがったのは自分だから、誠意をもって対価を払うべきだ。所詮は海賊だと嘘ついて騙して非情に裏切るのが常套手段なのかもしれないが、ゾロはそうではなかった。きっとこの船にそんな性根の腐った者は一人もいない。だから大事にしているし、守りたいのだ。
けれどいざローの長大なブツを目にした瞬間、若干怯んでしまい「初めてか」と聞かれウンウン頷いていや違ったとフリフリ首を横に振った。どっちだよ、と呆れ顔をされたのが心外で「来いよ」とゾロが両手を伸ばすと、ローはふと表情をゆるませて遠慮なく自身をゾロの中に捩じ込んだ。
災害のように奪ってしまった初回を終えると、ローは能力でティッシュ箱をキャッチして二人分の後始末をした。まだ足を開いたままハフハフしている眼下の男の、赤く熟れた花弁からトロリと白い蜜が溢れるのを目撃して愚息がまた暴走しかけたが、何度か深呼吸して抑え込むのに成功した後のことだ。
そもそもなぜゾロを誘ったのか、なぜ彼以外に選択肢がなかったのか。それは二年前、初めてゾロを見た医者の直感を思い出したからだった。この動く美しい死人は、一体だれの為に命を犠牲にしたのか。ローのように死を厭わず、愛してくれた人の為に覚悟を決めて――でもゾロは生きた。生き残ったのだ。ゾロの過去は今の自分、未来も彼のように存れるだろうか……。
ローは身支度もそぞろにゾロを後ろから抱えてソファに凭れて座った。まだほてったゾロのほっぺやこめかみにチュッチュとキスを降らせていると、パッと我に返ったゾロがローの腕の中から逃れようとするので難なく阻止した。
「おい、もう寝るから離せよ!」
「風呂で中に出したやつ掻き出してからな」
「いいよ、そんなもん。つーかいつの間に痕付けた!? 赤いのいっぱいじゃねェか! あ〜歯型まで……テメェなぁ」
「あんなに良さそうだったのに……?」
「うっせぇ! どうすんだよみんなに見られたら!」
「大丈夫だ、ドレスローザでは変装する」
変装して大丈夫な保証がどこに? とゾロはブツブツ言っていたが過ぎたことをいつまでもとやかく言う性格ではないのか、お前がフォローしろよと丸投げしてこちらに体重を掛けてきた。気まぐれに懐く大きな猫だ。
「おれのことばかり知られて不公平だろう。ゾロ屋の大事な人の話をしろ」
言うとゾロは過去の話ではなく、未来の話をした。ルフィを海賊王にすることが世界最強の剣士になることと同じくらい、今の自分の野心になってしまったのだと。つまり大事な船長の話だ。ルフィには言うなよ、となぜか口止めされちょっとムッとしたけれどその理由はわからなかった。
「なあ、なんでおれだったんだよ」
「二年前のお前のせいだ」
「はあー? お前とは目も合わせてねェだろ適当言うな!」
「どうだろうな」
「ちっ、変な奴」
ゾロの温かくしっとりした肌と、柔らかな緑の髪の感触、その汗の匂いはローをやっと落ち着かせてくれた。
この作戦後もしもまだ生きていられたなら、また彼に「抱かせろ」と言ってみようか。
二度目の機会はその二日後の夜に訪れた。
ルフィの手にかかり天夜叉は陥落した。
ローの作戦通りとは行かなかったが、Dの名を持つルフィと同盟を結んだことで破綻するのは実は目に見えていた。嵐を呼ぶのが〝D〟なのだから。
十三年間も賭けたローの復讐はものの数時間で本懐を遂げた。他人の手で。全力は尽くしたが多少の不甲斐なさと恩人への罪悪感は、この先消えることはあるだろうか――。
「目ェ覚めたか?」
どのくらい眠っていたのか、起き上がったら頭に鈍痛が走りローは眉間を押さえた。そう言えば誰だかの家に運ばれ匿われた筈。その頃には意識が朦朧として記憶は曖昧だった。
「ゾロ屋か?」
「ああ。無理に起き上がらなくて良いぞ。右腕の具合はどうだ?」
「右腕……は、ジョーカーに切り落とされた筈……」
いやそうか、小人の能力で繋げてもらったのだった。熱はあるが後遺症になるような怪我はないと自己診断する。
「大丈夫だぞ、ちゃんと動いてるみてぇだからな」
「……本当だな。奇跡だ」
奇跡だらけだ。ドフラミンゴに一矢どころか自ら追い込んだことも、ドレスローザを本来の王に返しガキの頃のミスを挽回できたことも、オモチャを人に戻せたことも、こうして自分が生きてまたゾロに会えたことも……。ゾロに、とは変な話だ。彼はローのクルーですらない、まだ頭が混乱しているのかもしれない。
その混乱は行動にも表れた。ローは、背を支え水を飲ませてくれたゾロの後頭部を掴んで引き寄せるや唐突にくちづけた。深くも触れるだけに留めた唇はすぐに離れたが、意外にもゾロが焦った顔を赤く染め「見ろ!」と指差す方向には、ハナハナポーズで地獄の笑みを浮かべているロビンが今にもローの背骨をへし折らんと禍々オーラを放っていた。
「まずった……。一番厄介そうな保護者が起きてたか」
「ト、トラ男は|また《圏》寝ぼけてんだ! ロビン!」
再びゾロがフォローしてくれ、しかもローの手を掴むと無理やり小屋から連れ出したのだ。いつかの逆だ。
「また寝ぼけてるってなんだ?」
「話はあと!」
ゾロは熱くなった顔を冷やすようにずんずんと花畑を闊歩し小屋が見えなくなるとようやく足を止めた。……話は文句だった。
「おっまえなぁ! いきなりなんだよ、いっつもいっつも!」
「いつもは言い過ぎだろう。一回しかヤってねェ」
「それはっ、そうだが! つーかおれがずっと世話してやってたんだぞ体拭いたり薬飲ませたり! ありがとうは!?」
「あ、ありがとう……? 薬って、どうやって」
「聞くな」
「もしや口移し」
「聞くなって!」
「あーだから目が覚めるなりゾロ屋の唇に食いつきたくなったんだな……」
「マジか」
あっさり信じるゾロをかわいいなと思いながら口には出さず、ローは意味ありげな目線をゾロに送った。これでわかる筈だと根拠のない自信があった。
「待て、まさか、また『抱かせろ』? ここで? 今!?」
「ゾロ屋ぁ」
「またそうやってっ、物欲しそうな目で見やがって!」
しかしながら大袈裟にため息をついたゾロは「まあ一回も二回も同じだな」と男らしいのか大雑把なのかわからないことをほざいて、ローをいきなり押し倒した。花がクッションになり痛くはないが、さすがにローが目をぱちくりさせていると腹の上に跨った魔獣は、三日月をバックにペロリと舌なめずりした。
その一つきりの瞳さえ、金色に光っているように錯覚した。
「おいゾロ屋? どうする気だ」
「腕、まだ痛ェんだろ。テメェはじっとしてろ、おれが全部やる」
やるって、なにを。まさかおれが突っ込まれるのだろうかと背中に冷たいものが伝いローは己のバックバージンを案じたが、そんなことにはならなかった。ゾロはさも愉快そうにローのモノを咥え立派に成長させながら自ら後ろを拡げ、そしていそいそと宛てがった。ふーっと息を吐きながらずぷずぷと入れてしまい、勝手にゆさゆさ動き始めるからローの方がちょっと痛い。自分だって苦し気に顔を歪めるクセに、今夜の三日月みたいに口端を吊り上げ不敵に笑う、奔放な情人だった。
ローがゾロの羽織っていた真っ白いシャツをスルッとずり下ろす。月明かりに照らされた黄緑色の羽毛みたいな髪や白い肩、浮かぶ汗の美しさに感嘆しつつ腹巻の上から腰を力いっぱい鷲掴んだ。腰は案外ほっせぇんだよなぁと初めて抱いた夜を想起させながら、思うまま突き上げ男をガクガク揺らした。あ、あっ、と甘い声に囚われ始めると快感だけを搾取した。
咲き誇る花畑の月夜。メルヘンな景色に到底似つかわしくない獰猛な獣の混じり合いだった。
海軍からは見事に逃げ仰せ、一行はローの仲間がいるゾウへ。
ここまでの航海は悪天候続きで平坦とはいかなかった。ローとゾロは鯨の森で一週間分の溜まったものを吐き出すように三度目抱き合ったが、ローはこれが最後だろうと思っていた。しかし何の因果か、はたまた運命の悪戯か、ゾロを始めとする麦わらの一味の数人と侍数人をロー擁するハートの海賊団で預かることになった。
ワノ国までの数週間、ゾロがポーラータング号にいる。ローのテリトリーに。それはローのタガを簡単に外してしまった。
二日と開けずローはゾロの体を求めた。良い酒をチラつかせればまんまとゾロはローの部屋についてきて、美味そうに顔を綻ばせ瓶を空にし、酒代のつもりなのかローに抱かせてくれた。
これはセフレというやつだろうか。ローはふと頭に浮かんだ関係に|頭《かぶり》を振った。同盟は友達じゃない、決して。じゃあなんだと考えてみるも「気持ち良いから」しか言葉が出なかった。海賊なんだし、男で代用するのはままある話。深く追求するのはナンセンスだ。
ゾロが自分に飽きるまでは、とローは決めたが、ゾロの方もどんどんヨクなるようで出さずにイケた日には初めてそのままローの部屋に泊まった。ロビンだけは何か言いたそうだったからローは巧みに避けた。面倒事はごめんだ。
ローのクルーはと言うと、補給で立ち寄った島では宿を取りゾロを独り占めする算段のローを当たり前のように送り出した。どうやら付き合っていると誤解したらしく、ゾロを「キャプテンのお嫁ちゃん」扱いするのでゾロがいつか怒り出すんじゃないかとローは彼らの身を案じたが、ゾロは自分のことには酷く鈍感だった。
「おれはすっかりお前の体に溺れてるようだ」
事が終わり、ゾロがぼんやりしていると最中もその後も殆ど喋らないローがゾロを抱き寄せ額に唇をくっつけながら、そんなとんでもないことを呟いた。ゾロが聞いてないと思ったからかもだがしっかと聞こえた。理解もしたけれど、そりゃあ勘違いだろとゾロは呆れる羽目になった。
初めこそ気の高ぶりを抑えるためだったり、罪悪感を忘れるためだったようだが、今は対四皇戦への武者震いを鎮めるためだろう、少なくともゾロはそうだった。それ以外には思い付きもしない。
「そんなにイイか? おれン中は。まぁ、おれもお前とヤんのは好きだぜ」
だからからかい半分でノッてやった。好きなのは嘘じゃない、抱かれる度に実感している。
「ゾロ屋……」
ローの親指の腹がゾロのつるすべの肩をつれつれと撫ぜ、ローがゾロの唇にそっとキスしてきた。優しいキスはくすぐったい。ゾロがちろっと上目遣いに顔を見やるとその眼差しすら優しく、ごっこ遊びみたいでゾロは思わず破顔した。
「なんかよ、こうしてると本物の恋人みてぇだよなぁ」
「は?」
男前が怪訝な顔になりやっぱそっちの顔が正解だろうとまた笑えてくる。
「あ、そういやぁな、この間島に寄っただろ? 上陸する前にロビンに止められそうになったからトラ男と付き合ってんだって言っておいたんだ。いや、もちろん嘘も方便ってやつだぞ!? ただの性欲処理だとか言ったら絶対ぇ説教喰らうし、トラ男が危ねェ」
「おれが危ない?」
「おう。正しくはトラ男のキンタマが潰される」
「…………」
ローは想像に難くなくタマがひゅっとする思いだった。確かにやりかねない。
「仲間に嘘つくのは気が引けるんだがなぁ」
「なるほど、それでニコ屋の殺気が引っ込んだのか」
そうなのか? とゾロが首を傾げた。左耳のドロップピアスがちりんと良い音を立てる。それを指で弄んでいたらゾロがウトウトし始め「ねみぃもう寝る」と、ローの首元に頬をすりすりして目を閉じた。あっという間にすうすう健やかな寝息を立てる男にローは思わず口を掌で塞ぎ、天井を仰いだ。
ゾロは無意識だろうが、最近こんな風に甘えた仕草を見せるようになったのだ。それがどうにも可愛くてたまらない。
こんな奴、どこからどう見ても筋肉ダルマの屈強な強面男なのに。そう思う端からゾロの寄せられた胸の谷間に呆気なく劣情を煽られ、ローはため息を零した。
ゾロの髪をすくように何度も撫でる。ワノ国ではもう彼を抱くのはやめようと決意した。
……筈だったのだが、残念ながらそうはならなかった(何度目だ?)
花の都担当のゾロが各地に出没する度(舟に乗るなと何度言っても聞きゃしない)、騒ぎを起こす前にとロー自ら城跡(潜伏先)から出動し食い止める羽目になり、送りがてら宿屋にしけ込むのが恒例となった。白い着流し姿のゾロが壮絶に色っぽいのが悪いんだ。
四皇戦は我ら忍者海賊(中略)同盟の勝利に終わった。
ゾロはルフィと共に一週間も寝ていたらしい。一週間分の酒を飲み損ねたのは大変イタイ。
ローも生き残ったと知りゾロはひっそり安堵していた。アイツはまたおれを抱きに来るだろうかと待っていたが、数日経ってもとんと現れなかった。同盟の目的はこれで果たされた訳だから、同盟は解除。もうセックスする理由もない。来ないのは至極当然だった。
それをちょっと寂しく感じていることにゾロは動揺したものの告げる相手は姿を見せない。ああでも、ロビンにはトラ男と別れたって言わねェとな……。
傷が治りきらない内ではあったが、出航の準備が始まった。ゾロは仲間たちと慌ただしく過ごしていた。
とうとう出航当日になり、トカゲ港で最後の積込みを行いながら決着後初めてローの姿をゾロは目敏く捉えた。
ルフィと並んで三十億の首となった次期四皇候補は、討ち入り時の青いマントといつもの斑帽子に大太刀を担ぎ、普段通りのテンションで歳下船長たちの相手をしていた。大きな傷跡もなく元気そうで何よりだ。ゾロは無事をこの目で確認したら気が済んだので、木箱を運ぶ作業に専念した。
そんな時だった。
青い膜が張られたと思ったら、浮遊感のすぐ後に一変した景色の中にローがいた。いつもの能力を使ってゾロを移動させたのだとすぐにわかった。ポーラータングでも何度となくやられたやつだ、迷子救済だとか何とか言いがかりをつけて。
「ようトラ男。久しぶりだな」
ゾロは木箱をよいせと脇に置くと、不遜に腕を組んだ。まだ何かおれに用でもあんのかと言わんばかりにニヤリと笑ってやる。もちろんアッチのお誘いではないだろうから、ゾロはローがきっちり関係の終了を言い渡すのだろうと踏んでいた。そんなもんいちいちしなくていいのに、全く律儀な男だ。
「ちょっと顔をかせ、ゾロ屋」
言うとゾロにくるりと背を向けて歩き出す。わざわざひとけのない場所に移動するらしい。
ケジメをつけたいならそれもいいだろう、ゾロはローの揺れるマントを眺めながら後をついて行った。
するとあろうことか、ローと抱き合った様々な夜が脳裏をよぎるから困った。
サニー号での初めての夜、花畑や森で獣のように盛った夜、船長室のローのベッドで朝を迎えた日、ワノ国の宿屋で着物姿のローと帯を解き合い、素足を絡め、そして……って、だああああ!!(ゾロ心の叫び) 無理だこれ以上思い出したら本気で叫ぶ!
ゾロは頭をぶんぶん振ってそれらを消そうとしたが頬は火を噴くように熱かった。情けない。腕で顔を覆うように擦る。
ローとの距離はだんだん離れていった。足が重くなるのはこの後の言葉を聞きたくないからか、このおれが、この期に及んで……?
誰もいない浜辺まで来るとくるんとローが振り返った。ゾロは咄嗟に顔を背けて「言いたいことがあんならさっさと言え」と先を促した。
「知っておいてほしいことがある、ゾロ屋」
「なんだよっ」
自然ぶっきらぼうな口調になるのを止められない。ローはそんなゾロの素っ気ない態度をどう思っているのやら、一つ呼吸して「おれを見ろ」と命じてきた。
従うのは気に食わないが、じろりと睨め付ける。そうしないとまた顔が熱くなりそうだったから。
「ゾロ屋、お前はおれの初恋だ」
「…………、……へ?」
待て、トラ男は何て言った? はつこい? ハツ、コイ? そんな人一人殺してきたような凶悪面で??
「聞こえなかったのか?」
「初めての恋と書いて……」
「初恋だ! 何度も言わせるな小っ恥ずかしいだろうが!」
急にローがキレた。マジで勝手な奴だ。
「その顔で?」
「おれの顔が何だ。いいかゾロ屋、お前が麦わら屋との約束を果たした暁にはおれはお前を掻っ攫う策を立て、実行する。必ずだ。わかったか?」
うっかり頷きそうになってゾロは思い留まった。言われてばかりじゃ男が廃る。ここは応戦だ。
「その前に確かめてぇことがある」
「……なんだ」
「てめぇは四皇を二人も相手してるってのに誰かが死ぬより作戦失敗を取った訳だが、誰かっておれのことだよな? それだけじゃねェ、攻撃するフリしておれを何度も庇ったよな? トラ男ならと信用して後を頼んだのに、おれ連れて逃げたよなぁ? それもこれもおれに惚れてたからか」
ぬぐっ! ローが言葉に瀕した。それは肯定だ。
ゾロはもう澱みなくローの目の前まで距離を詰めると帽子の鍔で隠そうとする顔を下から覗いた。目が合い、ニィとまた不敵に笑ってやれば「だったらなんだ」と開き直りやがる。まぁそんな負けず嫌いは悪くない、むしろ好ましい。
「おれなんか抱くからだ、阿呆たれ」
「言うに事欠いてそれなのか!?」
ゾロはローの赤くなった頬をべちんと両手に挟んで歯がぶつかるのも構わずくちづけた。暴れるローに問答無用でキスを続けると、やがて大人しくなる。
ローがぎゅっと腰を抱いてきて、舌を絡める濃厚なキスを気が済むまでして、名残惜しく顔を離すとちゅっと濡れた音が波に拐われた。
「なぁゾロ屋。おれは正式な恋人として迎えに行くつもりだから、その日まで誰にも惚れないと約束してくれ」
懇願する三十億にゾロはもう熱に浮かされた瞳を隠しもせず、弾む息でようやく恋しい男に気持ちを返した。
「てめぇが死ぬまでおれの男でいると誓うなら、わかった。お前だけを想って待っててやる」
「全世界の神に誓う!!」
お前も二言はねェな!? とローが何度も念を押してくるのでゾロはヘイヘイと笑って返す。そして「この後どうするよ?」「ヤり納めだ覚悟しろ!」「おれ実はお前の部屋好きなんだよな〜行くぞ!」「そっちじゃねェ迷子め!」「おれは迷子じゃねェ!!」いつもの言い合い、それすら楽しい。仲良く手を繋いで戻ると方々から色んな憶測が飛び交ったけれど、意外にもロビンが「あの二人付き合ってるんですって」と口添えしてくれた。そういや訂正すんの、忘れてたなぁ。
こうして嘘も方便は本当になった訳だが、今の二人には実に好都合な事情となった。
☆ロさんが出航直前になって白タンクじゃなかったのはゾが汚したんですかね!そう言う事ですかね!
ローゾロ早く再会して幸せにーなれーー!!
ロゾ月間2026
2026/10/06
げんげ@GNG0110
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