風邪薬
「これ、一冬分あるんと違うか?」
呆れたオレの様子を隣で眺めていた四草が「上げ底の可能性とかもありますけどね。」と言いながら、箱を逆さにしてしもた。
バラバラと落ちて来た薬の小箱は、全部同じ色と形で、なんやこれ、と口から出てしもた。
「ウォーリーを探せていう絵本が流行ったこともあったけど、これやとウォーリーだらけやんけ。」
四草も似たようなことを考えたのか、手抜きですね、とひとこと、ざっくり切って捨てるように言うた。
「普通やったら、他になんか同じ会社で作ってるもん混ぜて包むもんと違いますかね。」
「まあなあ……。」
カゴメのジュースの詰め合わせとはちゃうけど、これだけ外箱が大きいと、貰う方もそういうもんを期待するわなあ。まあ、外箱が化粧箱やのうて、ただの段ボールやったとこから、ちょっとは想像できたけど。
「まさかほんまに風邪薬しか入ってへんとはな……。」
小草若時代の底抜けブームが今になって再燃して、オレの仕事の口もうなぎ登り。
とうとう、日暮亭のチャリティーイベント以外には小浜好きやで観光大使の仕事に関連してちょぼちょぼあるくらいやったオレのタレントの方の仕事がとうとう、三、四日に一遍くらいまで復活して、その合間合間に妹弟子である喜代美ちゃんの強権が発動して、日暮亭での高座が入るようになったわけや。
寝床では、草若ちゃんと作る越前蕎麦イベントみたいなもんがあって、喜代美ちゃんには蕎麦打ちの練習させられるし(これ、喜代美ちゃん「と」やないとこがポイントやで……まあ喜代美ちゃんのおかんも好きやけど。)、そんなこんなで休みがあるようなないような日を過ごしていたら、何の因果か前世の因縁か、コマーシャルアニメのキャラクターの声を当てる仕事が天狗から回って来た。
コーンタック800ていうトウモロコシ成分の入った風邪薬が新発売で、狐の声を四代目徒然亭草若が当ててます、皆オレの風邪薬買うてな~♡てなわけや。
アニメの声の仕事は、顔出しのテレビCMに比べたら単価が低いけど、実入りは悪くない。
底抜け狐の登場で、落語の隙間にオレがコーンと鳴くのもまあそれなりにウケたけど、この狐のパッケージ、どことのう四草の顔に似てへんか?
「風邪薬だけやのうて、喉に効く飴ちゃんとか咳止めシロップとか、パスとかが欲しいわなあ。」
「サロンパスて、他の会社の商品ですよ。」
「お前はほんま、細かいこと気にしよるなあ。」
同じ薬がどんだけあってもしゃあないし、三つくらいはここに置いといて、残りは日暮亭の救急箱に入れといてくれ、て喜代美ちゃんとこ持ってくか、と考えてたら四草が裏の使用期限を見て、二年は持つらしいですね、と言うて、小箱の山から五つほど取って、いそいそと救急箱に入れている。
「兄さんこれ、残りはどうします?」
「草原兄さんと草々のとこに配ったら、あとはどうするかやな。」
「草々兄さんとこの弟子にも配って、後は日暮亭ですかね。」
「寝床でオチコちゃんにお店屋さんごっこさせるわけにもいかへんからなぁ。あの年で薬事法に引っかかってまうわ。」と言うと、またコイツしょうもないこと言うて、と言わんばかりに四草が呆れたような顔をした。
「好きな商品に交換できる商品券とかやったら良かったんやけどな。」
「ここ、薬用の歯磨き粉とか作ってますしね。」
お前も調べとったんかい!
「まあこっちの皮算用が当たらんこともあるてことや。まあ、風邪薬がどんだけあったかて、お互い風邪引かんようにせんとあかんで。」
「仕事が入ってへん日でも、風呂に入ったら、ちゃんと頭乾かしてから寝てくださいよ。」
「……そんなん、分かっとるて。」
だいたい、オレが風邪引くとしたら、髪乾かしてへんせいやのうて、お前が寝かせてくれんからちゃうか?
まあええけど。
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