2023/10/13 服装の話

 いつだったか、どこかの博物館か何かの展示物を見た時だったと思う。中世の貴族の衣装に男性用でも花柄があり、この時代は男でも花柄着るのかよ。と、思ったものだった。
 その後は時代も変わって男だろうが女だろうが好きなものを着ればいいじゃないという風潮にはなったものの、俺個人の趣向でいうのならば、男の花柄は「なし」だった。


「それがどうしてこうなった」

 かつての俺よ、今まさに花柄を着ることになってるぞ。そうだよ、着てますよ。いや別にこの時代は男でも花柄を着るのは普通だ。普通。
 むしろ18世紀は男の化粧が当たり前だったし、19世紀は女性の化粧が禁じられていた時代もある。この世界がどれだけ俺の知っているゲームの世界と同一かはわからんが、男が化粧をする世界じゃなくてよかった。そして女性も当たり前に化粧をしている。

「とりあえず、おしろいに鉛を使った世界じゃなくてよかった」

 ファンタジー物でよくある設定だしな。いや、代わりに魔物素材が材料なのでそれはそれで心配なんだが、今のところ目新しい素材と言うわけではない模様。
 それはそうと花柄だ。しかもこれ、総刺繍。前世でも17世紀は富裕層が刺繍の美しさと素晴らしさで争ったというので、それはわかる。が、単純に重い。すっげー重い。さすがに今は慣れたが、最初に着た時は思わず固まったからな。さすが、仕立てはいいので着心地はいいんだけどな。
 王族の女性陣はさらにこれが全身に入ったドレスなわけだ。確か、イギリス女王が戴冠式の時に着たドレスが約14キロだったか? ローブや王冠を含めると20キロオーバーだったらしいからな。それを着て式典の時とか身に着けて長時間過ごすわけだから、体幹どうなってるのは不思議だ。写真でしか見たことがないが、あれも素晴らしい刺繍だった。
 イギリスの王宮展で見た衣装はどれも素晴らしかったな。いや、フランスにもあったんだろうが、某革命で金糸が使われた服や絨毯はほとんど燃やされて金を取り出されたっつー話で、ほとんど残ってないそうだ。今は貴族である身としては、この国がそんなことにならんようにするしかない。

「ヴェルナー様なにかございましたか?」
「うん? いやなんでもない」

 思わず自分が着ている服をまじまじと見ながら物思いにふけっていた俺は、リリーに声を掛けられて思わずハッと意識を戻した。
 それをきっかけに他の面々も動き出す。そうだった。今は朝の着替えの最中だった。

「フレンセン、今日の予定は」
「はい」

 フレンセンの上げるスケジュールを聞きながら、あれこれと差し込む仕事を考える。
 最初は重いと思っていた服も、すっかりと身に慣れてしまった。それは貴族としての己に慣れたというべきなのか。
 予定を上げ終えたフレンセンにこちらからもいくつか指示を出し、執務室へと向かう。さて今日も一日頑張ろう。生き残るために。


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ヴェルナーの中の人の世代だとするとこんな感じなんじゃないのかなって。
あと仕立ては見た感じイギリス仕立てっぽいので、自立するぐらいかっちりしてんのかな? と思ったり。どっちなんだろうね。(王様の仕立て屋で読んだ程度の知識)

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