20230102「兄」
ずっと冷凍してあった大きな肉の塊をちょっと外に置いておいたからって、中まで溶けるわけじゃない。僕はまさにそんな感じだった。
見つけた小屋に入り、火を焚き、肌では炎の熱を感じていたけれど、凍えきった体はいつまでも震え続けた。
でもその時、何の前触れもなく小屋の扉が開いた。
驚いて顔を上げた僕が見たのは、まぎれもなく兄の姿だった。
彼は絶対に、今こんなところにいるはずの人じゃなかった。おかしいってわかっているのに、凍えそうだ、とつぶやいて中に入ってきた彼の姿を見て、僕は心から嬉しくて震えた。
彼は当たり前の顔で僕のすぐ近くに座り、火に向かって手を伸ばして言った。
「元気そうだな」
僕はまだ寒さに震えていたし、そうでなくでもなぜこんな天気の日にさ迷い歩いていたのか、自分でも説明できない状態だったけれど、頷いて返した。
「……兄さんもね」
僕は彼が今どういう状況にいるのか全く知らなかったけれども、兄は故郷で戦っているはずだ。それでも彼は頷いて見せた。
「幽霊なの?」
そして僕が我慢できずにそう問うと、彼は今度こそ破顔して返した。
「まさか。死んではいないよ。おまえだってそうだろう?」
そう問われて、僕は返した。
「どうかな。たぶんね」
https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/qjbkUwtw7RU
(運命の回り道)
powered by 小説執筆ツール「arei」
81 回読まれています