女神とオレンジのケーキ


「というわけで良縁ください」

前置きも無く少女は冒涜的な微笑をこちらに向ける。
舐めてんのかこのガキ。と思いつつも、女神は優しさを言葉に乗せる。

『何でそんなに愛だ恋だに熱意をもてるか教えて欲しいわ』
「ちょっと!愛をつかさどる神様がそういうこと言って良いわけ!?」
『いいわけー』

食事の時間から外れた午後の私立高校、学食のカフェテラス、穏やかな陽と裏腹に風が冷たいこの日この時、外のテーブルにいるのは彼女だけだった。
隅の席、召還陣をテーブルに広げた少女は伸ばした爪を濃いピンクに塗っている。
ぎらぎらのラメ付き。それを目に留めて、女神は苦々しく言い放った。

『何その色、似合わない』
「い、いいでしょ別に!自己満足だもん!」
『ウソ、男に媚びてる証拠だわ、あなたの好きな色じゃないし』

ぐ、と少女の顔が歪んだ。口を真一文字に結び黙り込む。
女神は、形だけ肘を突いて其れを見詰る。

……たいしたこと無い、中の下くらいのどこにでもいる少女だ。
高校に入って、髪を切り、目を大きく見せる化粧を覚え、昔はやった『おまじない』を本気で試す程度におばかさんな、普通の少女。

「……わかった!家事するのに邪魔だと思ってたから切る!」
『良い心構えだわ』
「そしたら、良いお嫁さんになるね~とか言われるかなぁ」
『ないない』

普通、のはずだが、恋人関係をすっ飛ばして、結婚への願望が異様に強い。
女神が呼び出されたのも、その望みの強さと敬虔を一周した祈りの真摯さに負けたから、だろうか。
彼女は荒れた唇をちろりと舐めて、供物です、とカフェテリアで買ったらしいオレンジとチョコレートのケーキをこちらへ差し出してきた。
受け取り、未だに眉間に皺を寄せたまま文句を垂れ流す少女を見る。

「いい加減未来の旦那さんくださいよ~」
『運命とかは専門外なの、私はただの愛の守り手よ』
「それがよくわかんないよ」

私は、あなたのほうがわからない。

「神様なんだからこうちょちょいのちょいと、男を一本釣りに…」

寂しいなら、私がいるし、友達も多くは無くてもいるじゃない貴女。

「もしくは私に魅力を授けるとかさ、あ、言われたことは実践してるけど…」

気になる異性がいるわけでもない。
けれど彼女は必要以上の愛を欲す。

「一人暮らししてぇ、大学生になって、卒業したらそれなりの企業のOLになってぇ、三年くらい働いて…でざいなーずはうすに住んで、子供は・・・・」

貪欲だ。
こんな人間にすら成ってない命でさえ。

「・・・ね!結婚できたらさ、毎日貴女のために感謝のお祈りするからぁ」


ウソ、私のためじゃない、あなたは家族のために祈るようになる。
徐々に怠惰な忙しさと、同種が授けてくれる愛で満足するのだ。
仰ぎ見ていた視線を落として、

『まぁ、私はサイコロを振る神じゃないから、言葉を授けるしかないわ』
「うぇー」
『可愛いわ貴女、何時かちゃんとわかるわよ』

そして私は解らないまま、貴女に忘れ去られる。

オレンジケーキがやけに苦い、胸焼けのする女神の午後。

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