2024/03/24 01.ニルギリ・ブロークン(雑貨屋)

 焼き菓子に入れるのにいい茶葉はあるか? と問いかけると、「それならば」と差し出された茶葉だった。口当たりがよく、程よく苦みもある。ブロークンブロークンタイプなので入れやすい。とのことです。

「ラピス、ノエル、一緒にお菓子を作らないか?」

 雑貨屋にて、リデルとともにそうさせると、二人は目を輝かせてコクコクとうなずいた。今日は店が休みなんだが、二人ともなんだかんだ薬師ギルドに行ったり、冒険者ギルドに行ったりと忙しくしている。本人のスキルのためと言われればそれまでなんだが、子供ってもっと遊ぶもんじゃないか? という思いがどうしてもでしてね。果たしてこれが気晴らしになるかはわからんのだが、たまには。
 それに自分で作れるようになれば、私に何かあってもおやつにですね……。
 そんな思惑がありつつも作るのは初心者でも安心。むしろ雑に作った方がいいとすら言われるスコーンです。なにも入れないプレーンと、買ってきた紅茶を淹れたもの、それとオレンジピールを入れたものの三種類だ。

「まず材料を計量します」
「はい!」

 ラピスがシュタ! と、手を上げ、ノエルも頷く。材料は強力粉、グラニュー糖、ベーキングパウダー、塩、無塩バター、牛乳、卵。これだけで美味しいスコーンができるのだから素晴らしい。あぁ、タマとミーの卵は私が割ろう。
 材料をそれぞれ計量する。大事なのはきちんと計量すること。さすがに1グラムの誤差も許さんとは言わんが――いや、初心者はそれくらいの気合いでやった方がいいかもしれん。ともかく、ちょっとおおいとか、ちょっとすくないとか。その「ちょっと」がお菓子作りの敵だ。

「マスター、量れました」
「できたよ!」
「できました」

 それぞれの分を計量し、私の計量も終わった。ちなみにラピスがプレーン、ノエルが紅茶、リデルがオレンジピール。私は二種類入れたものを作る予定だ。
 まず最初は無塩バターを細かくさいころ状切って『冷やす』で冷やす。ない場合は……冷蔵庫を魔道具的なので作れるようにしとかないとダメか、これ。いや、リデルが使えるか。
 強力粉、グラニュー糖、ベーキングパウダー、塩、それに冷やした無塩バターをボウルに入れて、指でバターの粒を潰しながら粉に馴染ませる。馴染んできたら手でこすり合わせるようにする。

「パン粉みたいになったらOKだ」

 私が見本になるように出来たばかりのそれを見せると、三人は頷いて一生懸命に粉をこする。子供体温はバターが溶けやすいので大変だ。

「ラピス、こねないように、ざっくりでいいぞ」
「わかった」

 コネコネし始めたラピスにストップする。三人共出来たようなので牛乳と卵を入れて、またざっくりと混ぜ合わせる。三人とも指に纏わりつく生地に「うえー」という顔をしながら一生懸命混ぜている。

「記事がまとまったら、ボウルから出して、打ち粉をした台の上で生地を半分に切る」

 で、切った半分を上に乗せて軽くを押さえる。そしたらまた半分に切ってを繰り返す。

「これがスコーンの層になるんだ」

 ちなみにスコーンの大きく割れた部分を「オオカミの口」というらしい。えぇ、まぁそれを知ったので二人に作ってもらおうかなって思ったわけなんですけどね。
 繰り返したら綿棒で二センチぐらいに伸ばし、型で抜く。今回は私とノエルは〇、ラピスとリデルは花型と言えばいいのか、波うっている円形の型だ。
 ぽすぽす、スポンスポンと型抜きしていく。最後の余ったものは手で円形にしてしまえばいい。
「さぁ焼くぞ」
「はい!」

 ぶんぶんと尻尾を振りながらノエルが頷く。やはり型抜きって楽しいよな。大量生産してしまう時はスキルで作ってしまうが、たまにはいいものです。
 天板に乗せて黄卵に牛乳を混ぜたものを刷毛で表面に塗る。オーブンは予熱190度、それを180℃に下げて焼き上げる。

「マスター、焼き上がりは何分ですか?」
「15分ぐらいだな」

 ワクワクしながらオーブンを覗き込む三人に声をかけて片づけをする。片づけまでが料理だからな。私は片付け嫌いですが。【生活魔法】ありがとうですよ。
 四人で手分けをして片づけを終えたら、オーブンはあと数分と言ったところだった。いい香りがしてきたところで三人はオーブンを覗き込んで動かなくなった。

「お茶を淹れましょうか?」
「あぁ、これを入れてくれ」

 そこにカルが顔を出した。香りで出来上がりに気が付いたのだろう。スコーンにも入れた茶葉を手渡して入れてもらおう。
 ポーン! という音がして第一弾が出来上がった。

「さぁ、作った人の特権だ。味見をしようか」
「はい!」

 自分が作ったスコーンをそれぞれ手に取る。オオカミの口から半分に割ると、ふわりと漂う紅茶の香りとバターの香り。うん、よくできている。三人に視線を向けると、ラピスとノエルは頬を染めているし、リデルも楽しそうにゆらゆらと揺れている。味覚はなくとも皆で作るのは楽しいようだ。

「美味しいです」
「美味しい!」

 そうか、よかったな。頭を撫でながら言う。メタな発言をすると、春さんの牛乳およびそこから作ったバター、タマとミーの卵、ヴェルナからもらった砂糖を使っているのでまずいわけがない。
 スキルを持っていない二人でも評価が6だ。素材がえぐい……。

「しかし、これなら売り物にできるかもな」

 ラピスとノエル、リデルのスコーンとか、付加価値が付くかもなぁ。主に一部性癖のプレイヤーに。なんて思いながらつぶやくと、二人の尻尾が「びびびび」っと震えた。いや、ポーション類はノエルの作ったものも売ってるんだが? 料理はまた別? そうか。

「あ、でも、卵が」
「ラピスたち、卵割れない」
「あぁ、そうか。それなら、また一緒に作ろうか」
「はい!」
「作る!」
「マスターと一緒!!」

 三人が笑顔で頷くので、そういうことになりました。その後は出来上がったものをリビングに持っていき、お茶をする。イーグルやカミラにも「美味しい」と言ってもらってラピスとノエルは嬉しそうだ。うん、ガラハドは大抵は美味いって言うからね。

「素晴らしいですね。私も何か作れるといいんですが」
「そうだな、レーノはまた別のものがいいかもな」

 ババロアとか冷菓系もいいかもしれん。と私が言えば、ならなぜ三人がスコーンだったのかと尋ねられた。

「あぁ、初心者向けだったのもあるんだが、スコーンのこの割れ目が――」

 私の説明にラピスとノエルが嬉しそうに左右から私に抱き着いてきたり、月の終わりに「オオカミ印のスコーン」として三人が作ったスコーンが雑貨屋に売りに出されたりするのだが、それはまた別の話です。

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