一緒に
晴天の空の下、広々とした空間に真っ白な『何か』が目に入って来て、ほんまに眩しい。
「今日の空、めちゃめちゃ晴れてるなあ。」
僕がなんとなく思いついた感想を言うと、お前それ止めえ、と隣からツッコミが聞こえて来た。
「めちゃめちゃとか言うてたら、そのうち草若兄さんみたいな大人になるぞ。」
「分かった。」
お父ちゃんのその、「お前それ止めえ」ていう言い方、僕より草若ちゃんにそっくりやん、とか口に出さへん方がええんやろな。
「……今日はなんや物分かりがええな?」
「天気がええからとちゃう? これだけ晴れてると、やっぱり気分ええわ。」
「そうか。」
どこもかしこも広々としてるから、駐車場をてくてく歩いてるだけでも、ちょっとした運動になる気がする。
あれに並んだらええんかな、と言うたら、こっちや、と言いながらお父ちゃんが手を引いて人が少ない方の券売機の列に並ぼうとする。
ここまで来てしもたら、右も左もあんまり変わらんと思うけど、お父ちゃんもしかして、入る前からもう帰りたなってるのと違うんちゃうか。
ほんまにええ天気やなあ。家に残って洗濯物干したったら良かったんと違うやろか。
列に並ぶ前に、チケット並んで買うて見るほど面白いとことちゃうよ、太陽の塔に入るのも別料金やし、と言おうとしたけど、そんなんもう、お父ちゃんも分かってんのやろなあ。
常設展ならチケット高いこともないのに、博物館の方のチケットは買わへんかったし。
「あんなお父ちゃん。」
「うん?」
「中、だだっ広いし、芝生とかあるねんで。」
「知ってる。」
「博物館のとこにベンチあるし、疲れたらそこ行って座ったらええと思う。」
「そうか。」
散歩行くかて言うから僕はなんや草若ちゃんと普段してるみたいにご近所ぼちぼち歩いて、その辺のお店で今日の夕飯の何か買うて帰るような話やと思ってたんやけど、いきなり車に乗せられて、こないして連れて来られた先が。
「万博公園て……。」
「なんや文句あるか?」
「ないけど。」
ぶらぶらと歩く以外に楽しいことあらへんし。
「そこで、けど、て付けたら、こっちは文句あるわ、て言うてるようなもんやぞ。」
「分かってるて。」
草若ちゃんの口調移ってしもただけ、て言うたらまた面白うない顔になるんやろうなあ。
「お父ちゃんもここ来たことある?」と聞くと眉を上げた。
「なんや、ここ来たことあったんか?」
「うん。もう二、三回来てるで。遠足と、社会見学と、あと何やったかな。」
「校外学習か?」
「そう、それ……! そういえば、お父ちゃんは?」
「万博やってる時にお前くらいの年やったからな。」
「へえ~。」
お父ちゃんって、僕くらいの年に何考えてたんやろ。
空に浮かぶ雲見て、アレたい焼きみたいやな、とか思ったこと絶対になさそう。
太陽の塔に掛かってる今日の雲とか、ほんまに美味しそうなんやけど。
「なあ、草若ちゃんはここ、来たことあるかな?」
「それは僕に言うより、うちに戻ってから本人に聞いた方が早い。」
「いつ戻る?」
「腹が減るか、お前が歩くのに飽きたら。」
「もう飽きてる。」
「ほな帰るか?」
「そんなん、チケット代勿体ない!」
「……まあそうやけど、なんや家に戻りたなってきた。」
そんなん言われたら、僕も帰りたなってきた。
日陰のとこ寒いし。
「……上着いるか?」
あ、そこは気が付いてるんか。
まあ、ほんまに天気ええから、もう少しくらいおってもええけど。
公園の中をぐるっと回って、ぶらぶらと歩いてたら、広い芝生のとこまでやってきた。
今日、ほんまに晴れてるなあ。
「こういうとこで座布団置いて落語したら楽しいんとちゃうかな?」
「……まあ、そうやな。」
そういえば、日暮亭建てる前に、草若ちゃんとお父ちゃんの師匠さんの追悼で、草若ちゃんちで落語会したことあった、てオチコのおばちゃん言うてたなあ。
お父ちゃんも、僕と同じでここにはおらへん草若ちゃんのこと考えてるみたいな顔になった。
……今日は下見と思えばええか。
次はちゃんと草若ちゃん誘って一緒に来ような。
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