16. 知覧 ゆたかみどり 夏祭り(呪術 一年トリオ)
「あら、夏祭りなのね」
「……あぁ」
釘崎の言葉に、伏黒と虎杖は視線を音の方へと視線を向けた。三人そろっての任務の後、迎えの補助監督を待つために大通りに出たところで聞こえてきた祭囃子。思わず三人の胸に何とも言えない思いがよぎる。
今日尋ねたのは東京から離れた地方都市だ。羂索が引き起こした死滅回遊が瓦解し、いまだに東京は都市機能を失ったままだが、首都機能を大阪に移しながらも日本は何とか存在している。
そんな状況なため、当初呪霊の発生が増加することが懸念されていた。 今回の三人が討伐した呪霊も当初の窓からの報告では三級程度だったが、周囲の不安を糧に成長したのか、二級から一級程度まで力をつけていたようだ。
ただ新たな呪霊の発生という意味では、渋谷壊滅の際に政府が発表した「呪霊が発生するのは東京だけ」という嘘が功を奏しているようで、地方での呪霊発生は抑制されている。
逆に言えば東京では呪霊が大量発生しており、定期的に間引かなければあふれ出てしまいそうな状況になっている。高専では今後の監視体制、定期的な間引き体制の確立などを急ピッチで構築中である。が、いまだ学生である面々は既存の地方に発生していた呪霊の討伐に駆り出されていた。
三人一緒であることは、高専が授業などしている余裕がいまだないこともあるし、これ以上の呪術師の損害は防ぎたいという意味がある。五条の無量空処の後遺症が不安視されている伏黒を一人での任務に出せないともいう。釘崎もまた眼球が吹っ飛ぶという大怪我から復帰したばかりということもある。
人間というのは基本的に両目で距離感などを図っており、後天的に片眼を失った場合はそれがうまく図れなくなってしまう。そういう意味では、目覚めて半刻という状況でよく宿儺の指という決して大きくない的に当てられたものである。
たとえ本人たちが、復帰してから半年以上たっていると主張していても、高専の大人たちは三人一緒に任務に出している。
「なぁ、迎えってあとどれくらいかかるんだ?」
「えーと、祭りのせいで規制が入ってるみたいだな。三十分ぐらいかかるって」
今日の補助監督は馴染みのある新田だ。彼女からのLINEに夏祭りを見てくるのでゆっくりでいいと返信を返し、そわそわしている虎杖に釘崎と顔を見合わせて肩をすくめた。
*
「まずはお参りだよな!」
「そうね」
思いのほか多くの屋台が並んでいる表参道を地元の人らしい人々をよけながら社の方へと向かう。社では篝火の準備がされ、仮で設置されただろうお札やお守り売り場には数人の姿が見えた。
三人は並んで賽銭を投げ入れるとそろって手を合わせる。日ごろから超常的な世界に生きる彼らではあるものの、そこまで神の存在を信じているわけではない。いやだからこそというべきか。それでもこうして信仰が集まる場所は、呪霊が集まる場所とは対照的な澄んだような空気を感じることはできる。
「……いい場所ね」
「だな」
「よし! まずはたこ焼きだよな!」
「バカね、まずはりんご飴よ!」
小さく呟いた釘崎に伏黒は頷く。パッと顔をあげた虎杖がさっそく屋台に向かうのを追いかけて釘崎も歩き出す。いつものように言い合う二人が「伏黒は?!」と、振り返ってくるのに「イカ焼き」とぶっきらぼうに返せば、「それもいいよな!」と虎杖が笑い、釘崎が「口の周りが汚れる」と眉を顰める。
結局それぞれ買い求め、ちょうどやってきた新田に祭りの空気をおすそ分けしつつ帰路につくのだった。
「そういや花火も上がるんだってよ!」
「しょっぼい神社の祭りにしては豪華じゃない!」
「いいっすねぇ、花火」
神社でポスターを見たという虎杖と、見れない残念さの裏返しか口が悪い釘崎。伏黒がスマフォで調べたが、今年は東京近辺の花火は行われないらしい。
「コンビニに花火売ってるかな?」
「今は売ってるっすねぇ。よりますか?」
「いいわね。真希さんたちも誘ってやりましょう!」
「お願いします」
せっかくだし、高専でやろうぜ。と虎杖が言えば二人も気乗りした返事を返した。新田が近くのコンビニに移動する。彼らの夏はまだ始まったばかりだ。
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