16. 知覧 ゆたかみどり 夏祭り(呪術 一年トリオ)

「あら、夏祭りなのね」
「……あぁ」

 釘崎の言葉に、伏黒と虎杖は視線を音の方へと視線を向けた。三人そろっての任務の後、迎えの補助監督を待つために大通りに出たところで聞こえてきた祭囃子。思わず三人の胸に何とも言えない思いがよぎる。
 今日尋ねたのは東京から離れた地方都市だ。羂索が引き起こした死滅回遊が瓦解し、いまだに東京は都市機能を失ったままだが、首都機能を大阪に移し、日本は何とか存在している。
 今日三人が尋ねたのは、そんな騒動の影響は少ないものの、それでも呪霊は増えており、三人が

「なぁ、迎えってあとどれくらいかかるんだ?」
「えーと、祭りのせいで規制が入ってるみたいだな。三十分ぐらいかかるって」

 今日の補助監督は馴染みのある新田だ。彼女からのLINEに夏祭りを見てくるのでゆっくりでいいと返信を返し、そわそわしている虎杖に釘崎と顔を見合わせて肩をすくめた。



「まずはお参りだよな!」
「そうね」

 思いのほか多くの屋台が並んでいる表参道を地元の人らしい人々をよけながら社の方へと向かう。社では篝火の準備がされ、仮で設置されただろうお札やお守り売り場には数人の姿が見えた。
 三人は並んで賽銭を投げ入れるとそろって手を合わせる。日ごろから超常的な世界に生きる彼らではあるものの、そこまで神の存在を信じているわけではない。いやだからこそというべきか。それでもこうして信仰が集まる場所は、呪霊が集まる場所とは対照的な澄んだような空気を感じることはできる。

「……いい場所ね」
「だな」
「よし! まずはたこ焼きだよな!」
「バカね、まずはりんご飴よ!」

 小さく呟いた釘崎に伏黒は頷く。パッと顔をあげた虎杖がさっそく屋台に向かうのを追いかけて釘崎も歩き出す。いつものように言い合う二人が「伏黒は?!」と、振り返ってくるのに「イカ焼き」とぶっきらぼうに返せば、「それもいいよな!」と虎杖が笑い、釘崎が「口の周りが汚れる」と眉を顰める。
 結局それぞれ買い求め、ちょうどやってきた新田に祭りの空気をおすそ分けしつつ帰路につくのだった。

「そういや花火も上がるんだってよ!」
「しょっぼい神社の祭りにしては豪華じゃない!」
「いいっすねぇ、花火」

 神社でポスターを見たという虎杖と、見れない残念さの裏返しか口が悪い釘崎。伏黒がスマフォで調べたが、今年は東京近辺の花火は行われないらしい。

「コンビニに花火売ってるかな?」
「今は売ってるっすねぇ。よりますか?」
「いいわね。真希さんたちも誘ってやりましょう!」
「お願いします」

 せっかくだし、高専でやろうぜ。と虎杖が言えば二人も気乗りした返事を返した。新田が近くのコンビニに移動する。彼らの夏はまだ始まったばかりだ。

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