帰り道
海辺からの帰り道。すっかり日もくれて、三日月が空高く上っている。夜風が行きよりも柔らかに顔にあたる。エンジン音も心無しか軽いような。対向車も居ないので、カーブも緩やかに。運転している信一の心持ちを写しているようで、隠せないやつだな、と苦笑してしまう。
「何笑ってるんだよ」
のんびりと考え事をしていると、ハンドルを握っている信一が不意に声をあげた。
「いや、なんでも」
四仔のすげない返答に、信一は不服そうだ。
「……すぐ止めて問い詰めたいな……。まあいい。ちょっと寄り道していいか」
「なんだ急に」
「十二と洛軍に、土産」
何も言わずに出てきたから、と続ける。信一の事を、適切な距離でもって気遣っている二人が今更、とやかく言う事はないとは思うが、と四仔は思う。が、それは言葉にしなかった。
「そうだな、夕飯も食べずにここまで付き合ってやったんだ、俺にもなにか奢れ」
夕飯を買いに行く途中にいきなり連れ出されたから食いっぱぐれてる、と続けると、信一はぐうの音も出なくなったようだ。
「……分かった、ちゃんと出すよ、何食べにいく」
「麺がいいな」
「だったら、昔十二に聞いた店が近いから、行ってみるか」
ついでに何か甘いものでも買っていくかと続ける。
「ああ」
今日はいい月が見えるし風も吹いてる、屋上で食べるのもいいかもしれないな、と四仔が続けると、信一がロマンチストな先生だな、とつぶやくのが聞こえた。
「そんな時もあってもいいだろう」
それに、返答はなかった。
「いくぞ」
有無を言わさず加速させる信一に、四仔は振り落とされてたまるか、と捕まる腕に力を入れた。
どこまでも、背中を見ていてやる、と思いながら。
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