SQ『ハイ・ラガードの花たち』
天を衝く世界樹に擁された街、ハイ・ラガード公国。空飛ぶ城に繋がっているとされるその大樹は、内部に謎の遺跡群と未知の動植物を内包した樹海を広げていた。
樹海を調査し、伝説の真偽を確かめよ。
大公から出されたその触れに惹かれ、この街には数多の冒険者たちが集結し、樹海を出入りしていた。
例えば、ブーゲンビリアと名乗る、5人の冒険者から構成されるギルド。それぞれの事情から世界樹を攻略せんと奮起する、新進気鋭の集団だ。
此処に所属する冒険者のひとりにして、ギルド内では最年少の|銃士《ガンナー》であるリーリエという少女には、ひとつ悩みがあった。
迷宮探索は一進一退ながら順調で、ひとりだけメンバーの中で足を引っ張ってしまっているだとか、そういったこともなく着々と冒険者として腕を上げているところなのだが。隣で共に戦ってくれる仲間のひとり、呪いの言葉を得意とする|禁断の術師《カースメーカー》のサツキという人物とどうにも馴染めずにいた。
サツキは感情を表に出すでもなく、意志疎通も淡泊なものなので、そもそもが掴みどころがないように感じていたのかもしれないが、だとしてもやたらと自分に当たりが強いような。リーリエはそのように思っていた。
うっかり躓いて転べば、「立てるか」と抑揚のない声で。魔物からの攻撃を身に受ければ、「まだ戦えるか」と淡泊な問いかけを。他のメンバーのときには、特に気にする素振りもないのに、彼女にだけ。もちろん、自分は冒険者として未熟なのはわかってはいるが……と、リーリエは悶々としていた。
この日などは、樹海から帰ってなお、サツキは彼女にじっと意味ありげな視線を送っている。
小さき銃士には、呪言の術師からのそれが自身の失態を咎めるものに感じられて仕方がなかった。あの目はきっと何かを怒っている、と。魔物に向けて放った銃弾を外したことか、それとも油断して冒険者の必需品をリスに盗まれたことか……いずれにせよ、謝っておかなければ。
しかし、そんな彼女の謝罪に重ねるようにして、サツキが口を開く。
「あ、あの」
「怪我はないか」
「……え?」
何を言われたのか理解するまでに時間がかかったらしく。リーリエは目を丸くした。
「歩いて帰ってきたから。転んだり、枝で肌を切ったりしていないかと」
「あ、いや……大丈夫、です」
困惑しながら彼女が答えると、サツキはこう続けた。
「よかった。リーリエは僕たちよりずっと小さいから、心配している」
その言葉で、リーリエは漸く合点がいったような気がした。もしかして、今までも咎めていたのではなく心配してくれていたのか、と。
それを口にしてみると、術師は少しだけ眉尻を落とした。
「……ずっとそう感じさせていたのか。すまなかった」
僕だって失敗をするのだから怒ったり咎めたりはしない、とサツキは少し申し訳なさそうにする。なんだ、そういうことだったのかと、リーリエも安堵して笑みを見せた。
以後、彼女が仲間との接し方に悩むことはなかったという。
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