労い


「はぁ~。今年は平和に年を越せそうですね」
 日付が変わるまで、あと五分。対ホロウ六課のオフィスで見慣れた壁掛け時計を見上げながら、悠真は椅子の背凭れを軋ませて背伸びをしながら言う。いつもならば日付が変わったところで地続きの翌日を迎えるだけだが、今日は違う。新しい年の初日を迎えるのだ。
「去年はメリノエの調査で立て込んでいましたから。年越しを祝うイベントには何とか参加できてよかったです」
「イアス可愛かったもんね!」
「えぇ」
 柳と蒼角がそれに続き、デスクから顔を上げる。昨年の事もあり今日ばかりはいつも先に帰宅している蒼角もオフィスで待機していたが、これならば何事もなく終業できそうだ。
 共生ホロウ「メリノエ」。真っ白なホロウでは秘密裏にプロキシ「パエトーン」の協力を得て無事に調査を終えることができた。そのプロキシたちのマスコット的存在イアスの雄姿を、年越しの華やかなイベントとともに思い出す。課長席から三人の様子をそれぞれに見渡し、今年ならばと提案を口にする。
「明日は我が家で皆を労いたいと思っているのだが……どうだろうか?」
 さすがに正月は緊急出動がない限りは休暇をとるようにと上層部からもお達しが出ている。自らが発足させた六課の面々を労う絶好のチャンスである。
「行きたーい! ミヤビのお家のご飯! メロンもある!?」
「あぁ、もちろんあるぞ」
 素直に喜ぶ蒼角の横で柳が心配そうな視線を寄越す。
「お正月はさすがにお忙しいのでは?」
「星見のお家ともなると、ゴアイサツとか忙しそうなイメージですけど」
 今度は悠真が柳に続く。
「確かに午前は来客が多い。なので夕食に招待したいのがどうだろうか」
「はーい!」
 蒼角の元気な返事に苦笑しつつ、柳と悠真もようやく頷く。
「では、お言葉に甘えて」
「それじゃあ僕も。何が出てくるか楽しみだなぁ~」
 ふと、窓の外から低い轟音が聞こえる。視線を向けてもここからでは景色までは見えないが、年越しカウントダウンの花火が始まったようだった。
「あけましておめでとう。今年もよろしく頼む」
 柳、蒼角、悠真へと順に視線を向けながら、また新しい年を迎えられたことを、これまでと変わらず共に在れることを、蒼角のように素直に喜びたいと思う。その気持ちに応えるように、柳、蒼角、悠真の三人もまたそれぞれに新年の挨拶を口にするのだった。

 翌日。星見家当主――雅の父が張り切って、六課の面々に用意していた晴れ着を着せるのはまた別のお話。


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