ケンとリュウが一緒のお風呂に入る話
ケン→→→→→→リュウになっています。ケンリュウです。
セックスはしていませんが性的なニュアンスの内容を含みます。
ふたりが出来ているのか出来ていない状態で感情がデカいのか書き手にもわかりません。とりあえず読んでください。
リュウがいない。まだトレーニング中だろうか。ケンは夕飯の匂いの立ち込めるキッチンを離れ、自宅の奥へと進んだ。
東南アジアのヴィラを模したこの家は、間仕切りがあまりない。わずかな声に足さばき、器具を使っている音も含め、気配と言う気配がケンには直に伝わってくる。静かすぎる、瞑想かと思うがこの飯時前だ。空腹で雑念を晴らせる胆力はないことは、兄弟の自分が一段よく知っている。
なら別の棟か。今いる母屋は平屋なぶん、居ればすぐにわかる。南側の棟に向かうが誰もいない。剛拳の遺灰を置いていた和室にもいない。ポケベルなんて持たない男だ。海にでも行ったか、と更に考えを巡らせていると、見ていない場所があるのを思い出した。
和室の更に奥、家では一番隅にあたるところに、ケンのプライベートなバスルームがある。脱衣所に入るとすぐに洗剤の匂いがし、ここかと合点した。あまり使っていない部屋だが、掃除用のスポンジが塩素の匂いと共に湿っている。
「入るぞ」
言うが早く戸を開ける。中に入れば、爽やかな風が頬を撫でる。ここは半屋外のテラスだ。途中まで屋根がせり出し、ウッドデッキの上には同じ材質のベンチも置いている。一番特徴的なのは中央だ。デッキに埋め込むように丸いジャグジーが設置されており、丁度お湯からぼこぼこと気泡が沸いている。
そしてリュウがいる。湯船に身を預け、口が半分開いている。目も閉じていて、ケンの声が聞こえているかもわからない。
「ぁあ」
相槌とも感嘆とも言える声が、漏れている。ひとりの世界に入り込んでいる。ケンは彼の肢体を一瞥した。白く伸びやかな腕はジャグジーのふちに置かれている。その分肩は湯についておらず、盛り上がった胸筋が露わになっている。自分とは違い毛が無くつるんとした質感で、大きな傷もなく綺麗だ。そんな箇所を凝視していても、リュウはジャグジーの素晴らしさに夢中だった。
「風邪ひくぞ」
「まさか」
「肩まで浸からないと」
ケンがむかし剛拳に言われていたことだ。すぐに思い出したのか、リュウがくすりと笑って目を合わせる。完全に気が抜け、眉毛がへの字になっている。無防備が過ぎる。
「湯加減はどうだ?」
「最高だ」
「ちょっと待ってろ」
いいものがある。ケンは一度脱衣所に戻ると、何やら日本語で書かれた容器を持ってきた。
「それは?」
「温泉の素」
見れば薬湯と書かれている。ふたを開けて中のカップでひと掬いし、湯に入れる。ジャグシーが大きいせいか、ひとさじでは大した香りも色も付かない。二人は様子を眺めていたが、ケンが数秒後に二杯三杯と追加した。
「んん」
ようやく硫黄の匂いが立ち込め、更にリュウの口角が緩む。その合間にケンは服を脱ぎ捨てると、兄弟の隣に入った。
少し湯が溢れてデッキへ流れる。名残惜しそうにリュウの視線はそちらへ向いていた。勿体ないという気配である。蕩けすぎている。気が抜けすぎてこちらへの興味が感じられず、ケンは密かに歯噛みした。
「んー…」
ずるりと滑り落ちるように、腕を湯に入れて腰を落とす。胸も湯に完全に浸かり、逆に伸ばした足が反対側のジャグジーのふちから出る。薬効のせいか耳が徐々に色づき、紅梅のような色合いになる。頬も血の気がめぐり、薄いまぶたがほんのり赤くなる。
「髪…」
「え?」
「髪も結べって言われてたな、センセイに」
急に言われ、ケンは一瞬己の肩を見た。ほどいた髪が肩にあたり、湯に入って花びらのように広がっている。反射的に手首のゴムを手繰り寄せたが、目を閉じながらリュウはかぶりを振った。
「いい、ふたりだけだし」
「…まぁな」
「温泉、好きだったか?」
「あ?まぁな。冬はあったかいし」
「そうか、よかった」
何を返せばいいのか。これまでのことが頭を駆け巡り、ケンは言葉に詰まった。鍛錬していた頃のことを言うべきなのか。また剛拳のことにも触れることになりそうで、顔が誤魔化しで変な強張りを見せる。
「…かったのに」
「え?」
「…センセイも、あんな怒らなくてよかったのに」
そう呟くリュウの視線は、柵を超えて水平線を見つめている。もうすぐ日没だ。橙の太陽が穏やかな太平洋に、ゆっくりと包まれていく。一秒ごとに移ろいゆく景色が更に過去を引き出し、更に喉から言葉が消えていく。
「きれいだな」
「…ああ」
「お前と見れてうれしい」
リュウが小首を傾げ、ようやくこちらを見る。ケンは脳天まで一気に熱くなるのを感じた。どんな顔をすればいいんだ。過去と今がないまぜになって、思考がプロテインシェイカーにぶち込まれたようだ。強烈な恥ずかしさが襲い掛かり、ケンは勢いのまま思い切り湯の中へ潜り込んだ。
「おお」
また勢いのまま湯から出ると、冗談めかして髪をかき上げる。 体も捻るのでお湯が大量にかかるが、ナルシスティックな動きにリュウは大口を開けて笑った。とどめにモデルのような表情でポーズを決めると、笑いすぎてリュウの目尻に涙が溜まっている。
「すごい、人魚だ」
「かもな、貝殻のビキニでも作るか?」
そう言って目の前の海岸を指す。更にツボに入ったのか、リュウは仰け反って引き笑いになっていた。
「やめ……」
今度こそリュウの顔が真っ赤になり、息を荒げている。しかも裸で。無防備に赤くなった首やら胸を晒して。
ケンはまたもや雑念で理性が一瞬隅に追いやられたのを感じた。今はその時じゃない。母屋で作られていた夕飯を思い出し、己を落ち着かせる。今仕掛けてみろ。流石にダンに窘められる。あとお湯が濁っていてよかった。
「大丈夫か?」
己が大丈夫でないときほど、こういうセリフが出るものだ。大丈夫と涙を拭う彼を見やり、わざとらしく背後の脱衣所の戸に目を向ける。
「そろそろ飯時だ。腹減らないか」
「そうだな。今日のメニューは?」
「ピェンロー鍋」
「ぴ…?」
「白菜と肉と干ししいたけの鍋だ。昆布とかの出汁も使うらしい。春麗が作ってくれてる」
味を想像したのだろう、わかりやすく兄弟が唾をのみ込む。そろそろ辺りも暗くなってきた。上がるぞ、と言って先にジャグジーを出ると、脱衣所に置いてあったバスローブを着て足早に廊下を歩く。
頭は冷たい。ろくに拭いてもいない。それでも顔は変に熱くて、火照りきっていた。
「…ぁぶなかった…」
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