2023/11/23 18.知覧 ゆたかみどり 寒椿
――寒椿が綺麗に咲いてるよ
右近にそう誘われて、白峯がお世話になっている離宮を訪れている。庭の一つが確かに寒椿が鮮やかに咲いていた。外は凍えそうに寒いが、部屋の中は火鉢と――たぶん何らかの結界のおかげで暖かい。餅を焼こうかな。
寒椿は椿と言ってもサザンカとツバキの交雑種だったか? 白と赤の大きくて鮮やかな花が雪の下で震えている。私はそれを見ながら白峯に膳を出しつつ、私は日本茶を楽しむ。さすが、いい茶葉を使っていますね。
白峯は相変わらずよく食べる。膳を食べ終えたあとにまだ何かを強請るので、差し出したのは抹茶と甘納豆の|ジェノワーズ《スポンジケーキ》。
甘納豆の甘みが抹茶のほろ苦さを引き立てている。緑茶にも合う。従業員の皆様にも差し入れ。一応問題ないとはいえ、悪名高い鬼神の世話をしてしてもらっているので、甘いものでも食べて少しは気安めになってくれればいい。
「やぁ、美味しそうなものを食べているね」
そこにさらなる心労の原因になりそうな人物が登場。多少は出歩けるようになったとはいえ、大丈夫なんですかね。
「キミのおかげでね」
そう言って右近が肩をすくめた。後ろには天音の姿もあるので二人にも同じものを出した。緑茶は天音が淹れている。
「今日はあの男はいないの?」
「ペテロか? 今日はいないぞ」
誘ってもよかったのだが、ログインしていなかった。そろそろ年末も近いので、私もそうだがペテロのシフトも何かと大変そうだ。シンも残業が増えている模様。
なんとなく残念そうだが、恋愛フラグと言うような甘酸っぱさが感じられない。こういうのもライバルっていうのだろうか?
「左近はどうしたんだ?」
「いろいろ頼んでいるからね、今日は留守番」
「何割かはあなたのせいだけどね」
「うぐっ」
いろいろやらかしている自覚があるだけに何も言えない。ついつい何かあると任せてしまっていると言いますか。ありがたいことです。
左近への土産もそっと渡す。天音が頷いてそれを受け取り、ついで新しく入れられた湯呑を受け取る。
「美味いな」
緑茶はリアルでも紅茶ほど飲まないのだが、まろやかな味わいで、どこかサツマイモのような香りがする。お高いんだろうなぁ。と言う俗な感想ですまん。
「気に入ったのなら持っていく? あなたの場合は木の方がいいかしら」
「どちらも欲しいな」
でも確か緑茶の木って定期的に入れ替えないといけなかったような? と思ったが、その辺はファンタジーなんだろうか? そう思いつつ用意してもらった茶葉をありがたく受け取りました。木の方は次までに用意しておくとのこと。――左近が。仕事を増やしてすまん。
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