いたずらしようね♡

アイカツスターズ きらあこss。
きらあこハロウィン2022です。
ネオヴィーナスアークのハロウィンイベントがあると聞いて、きららちゃんの楽屋に差し入れを持って行ったあこちゃんの運命やいかに!?

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 控室 ネオヴィーナスアーク様と書かれたドアをノックすると、中からものすごく聞き覚えのある甘い声が「はぁ~い」と返事をした。ちょうど彼女本人がいるようで、よかったと胸を撫でおろす。中に入ると、悪魔の恰好をしたきららの顔がぱぁっと明るくなった。
「あこちゃん!」
 言い終わらないうちに駆けて来て、ぎゅっと抱き着いてくる。その背中についているコウモリの羽みたいな装飾の角がこちらの頬に突き刺さって、あこは思わずニャー! と悲鳴を上げてしまった。
「あれ? ああ、ごめんごめん、痛かった?」
「もうっ! わたくしのすべすべのお肌に傷がついてしまいましたわ!?」
 むっとして言ってやったが、きららは生返事をしながらあこが手にしている紙袋の方に興味を移していた。
「なになに~? これ差し入れ?」
「ええ。今日はあなた方、ハロウィンのイベントですし、ちょうどいいかと思って買ってきましたの」
 中にはカラフルなキャンディやカボチャの形をしたクッキーなどおいしそうなハロウィンスイーツが溢れている。
「どうせトリックオアトリートとか言ってくるでしょうから先手を打って、こちらからお菓子をくれてやりますわ!」
「わーい、ありがとー♡」
 きららは嬉しそうにニコニコしている。なんだ、案外簡単ではないか。去年はあんなに色々いたずらされたが、こうして準備しておけばきららも素直に喜ぶものだ、そう思ったけれど、よく見れば彼女の口元は何か含みのあるような形に歪んでいる。
「嬉しいけど、これくらいのお菓子じゃぜんぜんたりないよーっ! だからあこちゃん、きららと一緒にいたずらしよ♡」
 きららの手があこの肩をがっちりと捕まえた。顔を寄せられてばっちり目が合う。彼女のラベンダー色の瞳が好奇心に満ち満ちたいたずらっ子の色をして輝いているのが分かって、あこは身震いした。
「じゃあ、まずは服を脱いで……」
「にゃっ!? にゃぁぁあああああああ!?!?」
 自分は一体どうなってしまうのだろう。ここは楽屋で、きららはこのあと本番のステージがある。他のNVAのみんなももうすぐリハなどを終えて戻ってくるだろうに――そんな思考が頭を過ったものの、いまの状況はどうしようもなく、きららの手に身を委ねてしまうのだった。

 一時間後、あこの目の前は真っ白だった。というのも、大きなシーツを頭からかぶっているからだ。そして、同じシーツの内部できららが身を寄せている。外側から見れば大きなおばけの姿である。
 シーツについている小さい覗き穴から見てみれば、近くに同じようなシーツのおばけがいるのが見えた。エルザ、レイ、アリアが中に入っている。といっても他のみんなはあこたちと違って、一枚のシーツ衣装に一人で入っているのだが。
 今日のステージは、子どもたちを対象にしたNVAのハロウィンミニライブだ。まずはこのおばけの姿で突然登場し、そのあとシーツを取ってそれぞれハロウィンモチーフのドレス姿でお目見えし、ダンスステージをおこなうという流れなのだ。
「あこちゃん、ステップ大丈夫?」
「ええ、それは問題ないですけれど……シーツが他のより大きいとはいえ、やっぱり動きにくいですわ」
 きららの思い付きで決まったあこの飛び入り参加。偶然予備の衣装もあったため、それを着て一緒にステージに出ようということになった。それにしてもなぜきららと自分だけ二人で同じシーツに入るのか。エルザやレイも自分と同じ疑問を投げかけたが、その方がみんなびっくりするよ! サプライズがあった方が楽しいよ! ときららが返せば、すんなりと納得されてしまった。
「大丈夫だよ。タイミング合わせればよゆ~よゆ~! きららとあこちゃんなんだよ!? ほら、行くよ~! せーのっ」
 いちに、いちに、という囁き声で、ぴったりとくっついて足を交互に踏み出していく。きららの言う通り、リズムに乗れば案外簡単にできて、なんだかちょっぴり悔しい気がした。
 そのままステージに上がって、きららの合図で、おばけとしてゆらゆら揺れる動きを始める。
「わーっ、おばけだ~! かわいい!」
「でも目のあたりがなんかこわくない?」
「ネオヴィーナスアークのみんなは?」
「もしかしておばけにたべられちゃったとか?」
「えーっ!?」
 子どもたちは楽しそうだったり、怖がったり、心配したりと、様々な表情を見せてくれる。なんだか楽しくなってきて、きららと二人、伸び上がったり飛び跳ねたり、色んな動きをしてみた。ほかのNVAのメンバーもそれぞれコミカルだったりおどろおどろしかったり様々に動き回っている。
「小さい子たち、みんなかわいいね~」
「ええ、本当に。あらあら、前列の子が泣き出してしまいましたわ」
 泣きじゃくり始めた子が心配であこがそちらの方を向くと、きららが同じ方向にぐっと顔を寄せてきた。さっきから結構密着しているけれど、その距離が余計に縮まって、きららの汗ばんだ肩があこの腕にぴたりとくっついてくる。あこは喉の奥でふにゃ!? と声にならない悲鳴を上げた。
 密着の理由は分かっていた。外側からは見えにくいデザインになっているシーツの覗き穴、それがさっきから色んな動きをしているせいか二人の顔の前から位置が少しずれて、きららがあこの方にぴったりくっつかないと覗けなくなってしまっているのだ。
 それにしても、そこまでして外の子どもたちをよく見なくてもいいのではないか。そう思っていたら、きららの手があこの首筋に触れた。
「ちょっと!? あなたこんなところで何のつもりですの!?」
 シャーッと肩を震わせながらもごく小さな声で抗議する。きららはやはりいたずらっぽい瞳でこちらを見ていた。
「子どもたちのこともびっくりさせるけど、あこちゃんのことはびっくりさせないなんて言ってないも~~ん」
「にゃ!? ちょっと、ふにゃ……っ、んっ、お、おやめなさいな……!」
 密着して汗ばんだ頬にきららが唇を落とす。そして可愛い桃色の下でペロペロと汗を舐めとった。
「き、きららぁ……!!」
 こんなところで。どうして。みんながそこにいるのに。恥ずかしさがこみあげてきて、瞳を潤ませながら睨みつけたら、ごめん、つづきは夜ね、と囁かれ、一気にシーツが剝ぎ取られた。
 見ればエルザたちも同じタイミングでおばけのシーツを剥ぎ取っている。きららとあこも慌ててジャーンとポーズを決めた。
「ええ!? あこちゃんもいる!」
「ほんとだ~! びっくり!!」
「ヴィーナスアークにてんこうしたのかな?」
「でもきららちゃんとあこちゃんがいっしょでうれしい~!」
「いつもはけんかばっかりだけど、きょうは手もつないでてなかよしだー」
「なんか二人ともかおがあかい?」
 そんな子どもたちの素朴な感想をダイレクトに耳にしつつ、にっこりと笑って”なかよし”を存分にやって見せる。その後のダンスステージも、先ほど少し練習したステップで正確に踊り、辺りは子どもたちの可愛らしい歓声に包まれた。
 サプライズありの楽しい素敵なハロウィンライブ。飛び入りでどうなることかと思ったが、一緒にステージができてよかったと思う。
 それにしても、先ほどのきららの言葉がやはり気になった。
 ――つづきは夜ね。
 それが本当なら、自分は今夜どうなってしまうのだろう? そんなことを考えながら明るいステージを後にしたのだった。

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