不変


夢ではないだろうか。
譲介は、自分の見ているものを疑った。
普段身に付ける必要はない、という前置きを聞いている間も、裸にシーツを纏ったままでベッドを下り、寝室にある譲介のデスクの引き出しから、小さくて四角いベルベットの箱を彼が取り出したときも。ずっと、まさか、と思った。
ベッドの上で半身を起き上がらせ、その常ならぬ事態に正座をすべきタイミングかと判断するよりも早く。
TETSUは、おめぇにやる、と言って、譲介の指に大きな石の嵌った指輪を填めている。
薄くピンク色がかったダイヤモンドは、少なくとも1カラットはありそうな大きさだった。
サイズはいつ測ったのか、ペアリングを着けてない方の利き手の薬指にぴったりだった。
夢にまで見た光景、とは流石に口には出せないが、譲介の心は羽が生えたように躍っている。
「徹郎さん、あの。」
「なんだよ。」
「この指輪、どうしたんですか。」と譲介は聞いた。
「聞きたいのか?」とTETSUは首を傾げる。不思議そうな顔で。
譲介の大事な人は「おめぇはガキの頃から全然変わらねえなあ。」と幸せそうな柔らかな顔で微笑む。
久しぶりだからどれくらい覚えてるかは分からねえが、と照れたように言われて、譲介は、あ、この言い回しには覚えがある、と思った。
「あれは、オレがKとシェラレオネの難民キャンプで蜂の巣にされそうになってたガキを助けたときだった。」
やっぱり!
変わらないのはあんたの方だよ!
FUCK、と口走りそうになった譲介は、汚い言葉遣いは止めようね、という朝倉先生の顔を思い出し、寸でのところで堪えた。
「徹郎さん………。」
「んだよ。」
「僕とベッドにいる間くらい、他の人の話は止めてくれませんか?」
せめて、そんな嬉しそうな顔をしないでいて欲しかった。
TETSUは困惑したような顔で、じゃあコーヒー飲みながらにするか、と言ったので、譲介は呆れてしまった。
この人、分かってなさすぎる。
譲介は、ベッドに大の字になって寝転がり、肘を付いて彼を見あげた。
「………十二時になるまでですよ。」
諦めたような気持ちで譲介が上掛けを捲ると、眠かったら寝ちまってもいいぜ、と言いながら、TETSUはいそいそと布団の中に入って来る。
今夜はきっと長い夜になるだろうなァ、と思いながら、譲介は大きくため息を吐いた。


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