2024/08/30 ヒョンジェさんお誕生日おめでとうございます!

송현재 씨, 생일 축하해!

현제유진/현윷/hjyj/ヒョンユジ
(일본어/소설)
※捏造・妄想過多
※時系列は無視しています
※前半部分はsslogに収録した内容と同じです(今年のssが去年の続きなので載せてます)


 ソン・ヒョンジェがお開きとなったパーティ会場を離れてホテルの部屋に戻った時、ハン・ユジンはすでに出来上がっていた。
 毒耐性のスキルでアルコールは効きにくいと認識していたが、許容範囲を超えた量を摂取したのか、スキルの調整ができるのか。彼が別の何かを隠している可能性に関しては考え出すとキリがないので一旦放棄して、部屋の主に向かってじとりと不機嫌な視線を向けている彼の機嫌をどう取るべきかへ思考をシフトさせる。
 今回の誕生日パーティはホテルをひとつ貸切って行った。今年はカン・ソヨンの誕生日をメインにしたため、去年に比べて地味になったと茶化され、国内で開催したことで協会の――というよりソン・テウォンの視線が痛くはあったが、特別楽しくもなく幕を閉じた。少々ホテルは破損したけれど。
「……俺って趣味が悪いんですって」
 ホテルの最上階、一番夜景が美しく見えるという部屋の窓はカーテンで覆われていた。間接照明しか点けられていない薄暗い部屋でも、この目にはユジンの拗ねたような表情まではっきりと見えた。
 パーティ会場からくすねてきたのだろう、テーブルの上にワインボトルが三本立てられており、ユジンは一本胸に抱えた状態でソファにあぐらをかいている。どれも中途半端にしか空いていなかったので、さほど摂取していないのかもしれない。着ていたスーツの上着は無造作にベッドへ投げ捨てられていた。
「誰かにいじめられたのかな?」
「アンタの評判が悪いって話ですよ」
 ヒョンジェがユジンを最後に見た時、女性陣に取り囲まれていたのでその時だろう。向かいのソファへ腰かけてワインの銘柄を改めて確認すれば、どれも高いものだった。安い品は出していないし、品質にも拘っているが、それでも一番良いものを見事にくすねてきている。ユジンが抱えているものは白で、テーブルの上のものは赤だ。
 グラスを取るついでに時計を見やる。日付が変わるまで十五分を切っていた。
「注いでくれない?」
「ご自分でお好きなものをどうぞ」
「主役なのに」
 仕方なしに自分で注げば、主役の殊勝な姿に少し気分が晴れたのかユジンがあぐらを解いて居住まいを正す。庇護対象が傍にいないからか、それともアルコールの影響か、かなり素が出ている。ヒョンジェとしてはそちらの方がいいけれど、彼は見栄を張り続けるだろう。これからも。
「それで? 祝われるべき私はどうして罵倒されたんだろう?」
 つん、としていたユジンは、自分から話を振ったくせしていざ話そうとすると迷っているようだった。白ワインのボトルを手慰みに揺らしながら、尖らせていた唇をゆるめていく。
「アンタわざと見えるようにこの部屋のカードキー渡しましたよね」
「そうだったかな」
「すっとぼけんな! それ見てたヒョナさんにつかまって、ソヨンさんとリアット呼ばれて、エブリンさんまで寄ってきて! わざわざ会場で渡さなくてもよかっただろーが!」
「坊ちゃんが連れて帰りそうだったから焦ってしまって」
 何でもなさそうに、しれっと言い放った――と、彼は思っただろう。まぎれもなく本心であったけれど、どうしてか伝わらない。
 ユジンの庇護対象二人は、仕事と学業の関係で早々に帰宅した。去年ことがあったからか連れて帰りたそうにしていた弟が兄の手を引くより先に、ヒョンジェがユジンの上着のポケットにこの部屋のカードキーを入れたのだ。それをムン・ヒョナの視界で行ったのは、引き留めてくれるだろうと思ったからだ。
 案の定、ただならぬ『お呼び出し』であり『他人の不幸』であると勘違いしてくれたようで、結果として彼はここにいる。文句を言うために。
「皆さん、ソン・ヒョンジェは顔と金だけしか取り柄がないから本当にやめておけって親切なアドバイスをくれましたよ。今更ですけどね」
「ユジンくんはどう思う? あいにくと本命の意見にしか興味がなくてね」
「……、顔とスタイルは良いですけど性悪ですよね。気分屋ですし、突然自然発火する爆弾でもありますし、機嫌が悪い時は最悪ですし」
 でも、とユジンが一拍置く。ベッドサイドの時計に一度視線を投げ、白ワインを置いて立ち上がり、カードキーを取り出してひらりと振った。
「でも俺は、ヒョンジェさんからの特別扱いは気分が良くなりますし、自分の趣味は良いと思います」
 そう言いながらユジンはヒョンジェの膝に乗りあがった。
「まあ顔は、ユヒョンの方が良いと思いますけど」
 両手でヒョンジェの頬を包み、軽く揉むようにしてくるくると動かす。嫉妬させたいのかな、と言いたかったけれど、アルコールがユジンの照れ隠しだと気付いているので黙っていた。
「お誕生日おめでとうございます。どうかいつまでもお元気でいてください。道を間違えそうになったら、何度でも無理矢理俺の方に戻してあげますのでご安心ください」
「……プロポーズかな?」
「曲解しすぎです。でも、お互い生きてて、俺に飽きない自信ができたら言ってください。来年のお誕生日に鍵をあげます」
 どこの、とユジンは言わなかった。少し困ったように笑った彼はそれを誤魔化すようにヒョンジェの前髪を搔き上げると、額に優しく口付けた。子供をあやすように、ささやかな願い事をするように、いつか恋人になる時を歓迎するように。
 日付が変わってしまうことを惜しみながら、ヒョンジェはユジンの背中を撫でた。促すようなそれを正しく理解したユジンは、目を閉じておとなしく待っているヒョンジェに躊躇いの気配を見せた。膝に座っておいて、額に唇を寄せておいて、何を恥ずかしがっているのだろう。
 ようやく唇が重なった時、すでに日付は変わっていたけれど、ヒョンジェは見なかったふりをした。
 誕生日くらいいいだろう、腕の中に入れていたって。
 誕生日なのだからいいだろう、手を尽くしても手に入らないひとを、今だけは独り占めしたって。


*****


 時間と場所だけが文面に乗せられたメールで雑な呼び出しを受けたソン・ヒョンジェは、うきうきと指定された場所まで足を運んだ。ほとんど顔パスの飼育所の正面玄関を通り抜け、遠巻きにしつつも慣れた様子の職員たちを横目に、指定された時間に指定された場所へ到着した。
 所長室は鍵が空いており、過保護な護衛は一人もいない。
 タブレットに視線を落としていたハン・ユジンは静かに訪れたヒョンジェを一瞥し、ひとつ息をついた。吐いた息に震えが混じっており、ここまで来てもまだ自信がないのか、とヒョンジェは内心肩を竦めたが、機嫌を損ねたくなったので普段通りのふりをした。
 彼の葛藤が自分のせいだと分かって気分がいい反面、自業自得でもあるので文句を言う資格はない。それはヒョンジェ自身がよく分かっていることだった。
「早いですけど、まあ、当日は忙しいでしょうし」
 挨拶もそこそこにユジンが本題に入る。彼の要件は見当がついているし、何を貰えるのか分かっているし、期待もしている。何せ去年、彼がそう言っていたのだから。義理堅く慈悲深いハン・ユジンが、それを違えるはずがない。
「……お誕生日おめでとうございます」
 数歩の距離を詰めてきたユジンが、不服そうな表情と声でヒョンジェに小さなものを握らせた。この場で開くなというように、ヒョンジェの拳の上から両手を重ねて、不服そうな頬に赤味を刷いて。
 手のひらに、金属の感触。ご丁寧に何かのキーホルダーまでついている。
「パーティが終わったら早速使わせてもらいたいんだけど……待っててくれる?」
「……当日中に来れるのなら考えてあげなくもないです」
「じゃあ誠意を見せないとね」
 ぎゅっと、拳に重なったままの手に力がこもる。その手が離れたと思った時にはぐっとヒョンジェのネクタイは引っ張られ、ヒョンジェは引き寄せられるがままにユジンが望んだ距離まで顔を近づけた。
「……俺にここまでさせたんだから、飽きたら覚えてろよ」
 ヒョンジェが返事をする前に唇が重なる。触れた瞬間に感じた震えは彼の覚悟であり、己の性質とはいえここまで長くいじめてきてしまったヒョンジェの罪だ。黙って受ける。受け取る。それでハン・ユジンが手に入るのなら、いくらでも。
 ビジネスパートナーでも、友人でもない二人が過ごすための、誰も知らない逢瀬の場所。知っているとしてもたった一人、その炎がここにいないことが彼の答えだ。
 場所を用意することはヒョンジェにとって造作もないことだが、これは『ユジンが用意した』ということが何よりも彼の気持ちを雄弁に伝えてくる。今なら幼き混沌の攻撃をいくら受けてもいい。
 ずいぶんと、遠回りをしたと思う。互いに一番大事なものが『互い』ではないから、仕方がないのかもしれないけれど。今日までの関係も楽しかったから良いのだ。
「パーティ、どうでもよくなってきてしまったな」
「関係者各所に迷惑がかかるからきちんとやれ」
「ユジンくんの誕生日には期待してて。式は盛大にやろうね」
「は!? いややめろ、やめてください、何もしなくていいです! そもそもアンタ分かってます? 俺たち式挙げる以前にそれを考えるような関係に『まだ』なってないです」
 じとりと、不満げな視線を受けて、ヒョンジェは唇を開いた――が、それを指先で止めたのは他でもないユジンだった。

 ――お誕生日様ですから、特別に俺から言ってあげます。

「愛してます」
 その時の表情があまりにもきれいだったから、アンタも言えよなどという小言は引っ込んだ。返事などなくても伝わってくる気持ちに、ああ、ここからだと思った。
 新しい関係を、あなたに贈ります。生きていてくれてありがとう。


(ヒョンジェさんの人生がこれからも素晴らしいものでありますように。おめでとうございます!)
2023~2024/08/30 紅也@kouya_sclass

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