お題:約束


 まだ列車に乗ったばかりの頃、パムから生活する上での細かな説明を受けてこう返したことがある。
 ――それは命令という認識で良いだろうか。
 パムから告げられたのは、円滑な共同生活を送る上で、場を取りまとめる立場からのささやかな要望だった。今なら、パムが命令という意図で言ったのではないことも、この返しはあまりにも他人行儀であったと分かる。しかしあの時は、自分に向けられる要望は全て命令であると思っていた。
「それは命令ってことか?」
 そんなことを思い出したのも、宇宙ステーション「ヘルタ」で乗員として迎え入れた穹が同じような状況で同じような返しをする場面に遭遇したからだ。
「いいえ、これはお願い……言い換えるなら私たちとの約束ね」
「約束……」
 俺の時も、そして今回も、驚いて返答に困るパムに代わって同行していた姫子さんが説明を引き継いだ。
「そうよ。ここで生活する中ではみんな同じ乗員という立場なの。もちろん、危機が迫った時やイレギュラーな状況ではその限りではないけれど、各々の自主性と協調性を尊重するわ」
「分かった」
 そんなやり取りをしていたのがほんの数週間前の事。
「今度、なのと一緒に長楽天へ買い物行く約束したんだ。丹恒も一緒に行くか?」
 数日後の予定を共有してくる穹はアーカイブ室の床に転がっている。服が汚れるぞと忠告しても聞かないので好きにさせている。
「いや、俺は遠慮しておこう」
 三月と楽しんでくるといい、と遠慮した途端に彼は仰向けでじたばたと暴れ出した。
「えー! そのあと金人港で食い倒れする予定なのに! 仕方ない、じゃあ俺となので食べたもの全部丹恒の分も買ってくるからな!」
 三月と穹が揃うと言い出したら本気でやり兼ねないところが恐ろしく、阻止するためには同行を申し出るしかない。期待の眼差しで見つめられ、腹を括った。
「待て、限度というものが……分かった、一緒に行くから食べられる分だけにするんだ」
「やった! 約束だからな丹恒!」
 バタバタとアーカイブ室を出ていく穹を見送り、また甘やかしてしまったと額を抑える。とはいえ、彼が約束を口にすること、自身が約束をできることを嬉しくも思うのだから、きっと良い傾向なのだろう。そう思いたい。そして願わくは、これからも約束を続けていけるように。



2024.11.16 丹穹Webオンリー「もっと恋の探求! 一意専心」にて
リクエストありがとう御座いました!

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