きらきらと、ひとすじ
「っう、……」
熱心に花生の殻を剥いては口に運んでいた洛軍が、涙を零しながらぎゅっと目を瞑った。強く閉じられた瞳の端からは涙が零れて頬を濡らし、ごしごしと目を擦る様子は幼子のようだった。
いつものように騒いでいる十二と信一は洛軍の涙にはまだ気づいておらず、そばにいた四仔だけがすぐに気づいて、背を丸めて目を擦る洛軍の前で膝をつきその顔を覗き込んだ。
「洛軍、どうした。目に何か入ったか? 」
目を傷めるぞ、と擦る手をそっと握って下げさせる。その時になってようやっと十二と信一は騒ぐのをやめてがやがやと洛軍の両脇から心配そうに近づいた。
「急に、目が痛くなって」
開けていられない。と右目からぼろぼろと涙を零す洛軍に、四仔は窓の方に向かせると涙を拭って
「少し我慢しろ」
そっと指で瞼を開けた。痛みで閉じようとぴくぴくと動く瞼を慣れた手つきで押さえる四仔はまさしく医者の手つきで、わずかな光に照らされた瞳を覗き込んだ。
「抜けた睫毛が眼球に当たっているようだな」
頑張って瞬きできるか、の問いにうんと頷いた洛軍は涙を零しながらそれでも何度かぱちり、ぱちりとゆっくり瞬きを繰り返した。少し楽になってきたのかなんとか目を開くと赤く充血してしまっていたが、初めころの痛みは無いようだった。
「少し触るぞ」
洛軍の顔を覗き込むように、それでいて外からの光りが当たるように角度を調整しながら瞼をめくり、危なげない手つきで睫毛をつまむと
「ほら、取れたぞ」
太くて丸い指先には小さなくるんとした睫毛が一本つままれて、涙で濡れて光っていた。
「睫毛って痛いよなぁ」
十二は大丈夫か、と洛軍の顔を覗きこみながら、ごしごしとまた目を拳で擦っているその手をやんわりと握り、反対にいた信一は傍らにある肩に手を置いたまま、四仔の指先でつままれた睫毛をじっと見つめていた。
「四仔、それさぁ」
信一が声をかけた瞬間、四仔はふっとひと息で睫毛を吹き飛ばした。しっかりと、でも小さなそれはあっという間にどこかへと飛んで消えてしまう。
「あ! 」
「……なんだ」
眉を寄せてまた何かくだらない余計な事を、と声に出さずとも表情で物語る四仔を見ずにあからさまに肩を落とした信一はそのまま大きくため息をついた。
「四仔、ありがとう」
「あぁ、別に構わない」
あんまり目を擦るなよ。とひとこと口にして座っていた椅子に戻った四仔と、もう大丈夫だろうと手を離した十二を意識の外に飛ばす信一は口を尖らせたまま。
「……綺麗だったのになぁ」
ぼそりと呟いた言葉は傍にいた洛軍にも聞こえないまま、床にぽとりと落ちていった。
greentea(ペコ)@greentea_gogo
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