旅は道連れ 世はクリスマス
メリークリスマス!
改めて姉さん、お誕生日おめでとうございました!
何だかんだ長い時間構って頂いているなぁとふと感慨深いを通り超えて
感涙してしまいそうになったのでとりあえず短文乱れ打ちしてみようと思います。
(最後以外は勝手に1つテーマを作っているので似た雰囲気かも)
(いつもの言葉になっちゃいますが、解釈違い等々ありましたら本当にごめんなさい!)
□北里さんと安楽くん
日常生活において発声器官に封をしている北里にとって、何よりのツールになるのはその指先だった。極論と自覚しつつも、北里は手、強いては指先さえ自由であれば学生としての日常生活を穏便に過ごすことが出来ると思っていたし、現に鴻上高等学校に上がったこの2年と少しの時間は正にその通りであったから。手さえ動けば筆談が出来る。ペンが無くてもスマホがあれば。スマホが無くても、指先さえ動けば。案外意思の疎通は計れるから。
だから今、北里は指先までしっかりと握られた両手の所在にひどく揺らいでいた。
「せんぱい」
「………、」
「先輩ってば、」
呼びかけられる声を辿るように、北里は握られた両手から視線を少しずつ持ち上げる。繋がれたその腕を辿れば、先に長い髪が見えて、次いで眼鏡、そしてその奥に柔和に似た何かを湛えた安楽の瞳が見えた。ちらり、と横を見遣れば階段の手すりに彼が日頃抱えているぬいぐるみと自身のスケッチブックが器用に並んでいて、思わず“何かのアニメのエンディングみたい”と思ってしまったのは職業病に似たものなのかもしれない。
「いま、登校してきたんですか。お仕事ですか」
「……………、」
試しに思いっきり腕を振ってみる。当たり前かもしれないが、その両手が解かれることはなく、ただただ腕に余計な力が掛かって痛かった。次いでぎゅうっと強く握って、圧力を試みた。だが感じるのは男性特有の骨張ったそれだけで、寧ろ痛かった。あと単純に、北里は外見に違わずそんなに力がない。
「………」
「…………………、」
「せんぱい。はなして、って言うだけで良いんですよ」
なんでそんな当たり前のことをしないの?と言いたげな表情に、まるで図星に似たものを突かれた気がしてむっとする。そんなの分かっているけれど、それでも北里の発声器官の封は取れない。筆談生活を始めた頃、周囲にも“自身の身の安全を最優先にするように”と強く言われていた。だからもし、この両手を塞いでいるのが見ず知らずの人間だったなら、大声で叫んで助けを呼んだかもしれない。が、北里は彼を知っていた。そのせいなのか分からない。ただ分かるのは、彼のこの行為を、北里の根は危険だと、悪意だと、感じ取っていないのだ。じゃあ何なのだ、と問われると分からないのだけど。
「………」
彼のことは、よく知らない。よく知らないけど、実はこの行動は、彼にとって結構な勇気なのではないかと勝手に思った。だって、普段手中にいるぬいぐるみがいない。それこそ北里にとってのスケッチブックのように、文字通り肌身離さずと言わんばかりに胸中に収めているぬいぐるみを手放してまで、彼は今北里の手を握っている。何が彼をそこまでさせているのかは分からないけれど。
ぼうっと安楽の瞳を見上げていた北里に何を思ったのか、安楽がふっと力を緩めた。ああ、そろそろ予鈴が鳴る時間。北里は少しだけ自由になった爪先を安楽の手の甲に突き立てた。
□弥太郎くんと水月さん
その日は海がとても凪いでいて、だからとても静かだった。
蒼の人間としては、それはとても喜ばしいことだ。荒れた海は簡単に命を持って行くからとても危険なのだから。
ただ、弥太郎という人間としては。その静かな波音が何も隠してくれないから、いつも以上に違う音を響かせて来るから。凪いだ海は得意とは言えなかった。
凪いだ海の日は、仕事が多い。漁業もそうだし、外部からの砦としての役割だって一層気を張らなければならない。漁が盛んになれば、街へ行く必要だってある。そんな今日の俺の仕事は、海へ出たものと街へ出たものの連絡係―要は、留守番だ。ああもう、なんで、どうして。いや、分かっているけれど。海で何かがあれば、“声”を聴いて街へ走れとか、そういう意図なのだろうけど。
“□■■、□□□■■□■□□■■■□”
“■□、”
“■■■□”
忙しい屋敷の中、響く声は1つじゃない。それでも、一際大きく聞こえてくる声がある。凪いだ海の日は、これだから嫌いだ。街へ行ってほしくないなら、そう言えば良いのに。だって親方は、親方でしょう。行くなと一言命じれば、全てを収められるのに。他のすべての人間には、そうしてきているくせに。繋ぎ留めたいんじゃないんですか。それが悲しいくらい真っ直ぐなことを、俺は身を持って知っている。だからじれったい。でもそう思っても、言ってはいけない。余計なことは絶対に言っちゃいけない。またおしおきされる。黙っていればいいと、誰よりも教えてくれたのは親方なのだから。なのに。
「………ぅあ、」
「……お前は“本当に、” 嘘がつけなくて可哀想だなぁ?」
「な、なん、やたは何も言って、」
「顔色が酷く悪いじゃないか、俺が介抱してやろうか」
そう言って、真っ白な細腕が俺の耳を包んで、そして、
「一歩ずつ、学んでいこうなぁ?」
波が静かな日は、音がよく響く。
□藤島くんと伊塚さん(If前提のつもりだったけどどうかな~!?)
もう朝日が滲むまで間もない時間。
とっくに閉店作業を終えた伊塚と藤島は、客席のカウンターに腰掛けてゆらりと雑談を交わしていた。別に理由なんてない。ただなんとなく、お互いにそういう気分だっただけの話。
カラン、とわざとらしく鳴るグラスを揺らしながら薄黄色の液体を喉に流し込む藤島の様子を伊塚はじっと見て、ただ何となく問いかけた。
「藤島くんのその指輪って、お母さんのなんだっけ」
「ぇ、あ、うん。右手はそぉだよ」
そう言いながら藤島はグラスを置いて、右手を緩く振って見せる。指輪の細かいサイズなんて知らないが、少なくとも男女差は大なり小なり出るものではないだろうか。
「よく入るね」
「確かにたまにもう外れないかもって思うことあるよ」
「でもヅカさんも手めっちゃ綺麗だよね、入るんじゃない?」
「どうかな」
「僕とそんなに変わんないってぇ」
言いながら、藤島は伊塚の手を引っ張り、強引―というには伊塚も身を任せていたが、互いの掌を重ねる。細さと節が目立つ藤島に対して、伊塚の指は太くすらりと伸びたそれで、体格はよく似ているのに手のシルエットは絶妙に違いがあって藤島は不思議そうに“わ、”声を漏らした。
「変わった」
「変わったね」
「入んない気がして来た」
「かもね」
まじまじとその違いを比べる藤島を遮るように、きゅ、と伊塚の手は結ばれた。唐突に包まれた体温に藤島は思わず瞬きを繰り返す。
「…ぇ、なに、どしたの」
「いや、なんとなく」
そう言いながら藤島の掌を握る手の力を緩めては強める素振りを伊塚に繰り返され、藤島は緩みそうになる口元を必死に引き締める。自身より少し長い指先が手の甲や指間をくすぐる素振りにすらどこか上品で、でも艶やかな何かがあるのだから困ったものだ。口元が緩みそうになるのは物理的にくすぐったいだけだと思いたいけど、それだけじゃないことは自分が一番分かっていて悲しくなる。悲しくなりながら、握り返す自分の手も制御できないのからお手上げだ。
「…ヅカさんって俺より甘えん坊さんだよね」
「さぁ?」
□エメラルドさんとアドルフくんと、
“教会の鐘が薄暗く鳴る前、青い爪の彼と仲良くなった場所に”
そんなメールがエメラルドの端末に入って来たのは、自室でアフタヌーンティーを味わい終わったエメラルドがカップの片づけを試みようとしたその時だった。アメジストの収集した情報を組織に回収する役割を担っているエメラルドだが、如何せん彼の収集方法の関係で唐突に気取った内容で伝達場所を伝えられる。万が一探られたりした時のことを考えての内容だと“彼”は笑って言っていたけれど、これはこれで見られたら恥ずかしいような気がした。実はちょっと詩的で、嫌いではないのだけど。
エメラルドの才能とも言える方向感覚の無さをよくよく分かっているアメジストは、遠回しに同伴者を指名することがある。(逆に指名がなければ、時間が掛かっても大丈夫という意味だが、迷子という未知数のそれに対するアメジストの頭の中の計算式はエメラルド本人も知らない)
「18時前に青い爪の彼……、アドルフかしらね」
今日は彼は任務ではないのだろうか。とりあえず、の気持ちで彼の端末にコールすると、数拍置いて繋がった電話口で付き合ってほしい場所があるとだけ伝えると、深夜遅くに1件あるくらいでその時間なら、と快諾したのち、こちらが向かうと言う前に“エメラルドは今どこ?俺が行くから”と先手を打たれた。腹が立ったせいで、エメラルドは肝心の要件を伝え忘れたことに電話を切ってから気付いたが、快諾した人の好さが悪い、と腹いせのように開き直った。
「ああ、いたいた。お待たせ」
「早かったわね、屋敷にいた?」
「うん、まぁ、」
濁すように笑い目を細めることでエメラルドの刺すような視線を交わすと、首を傾げるような素振りをしながらアドルフは問いかける。
「で、付き合ってほしい場所ってどこ?あのファンシーショップ?」
「違う。それならアンタなんて呼ばないし」
「手厳しい」
「で、アンタがアメジストと仲良くなった場所ってどこ?」
「…………は?」
「同じことを2回も言わせないで」
なんで、と言いかけたアドルフの口は、それを紡がずきゅっと結んだ。エメラルドがアメジストの名前を出すということは、ただただ単純に仕事の話だと思い至ったから。思い至ってしまったから、拒否も否定も出来なくなったことにも気付いてしまって、アドルフの脳内が揺れるような心地をしていることなど、エメラルドは知る由もない。
それから、数十分後。
「エメラルド、お待たせ」
「本当にね」
「ちょっと手間取ってしまったの。……あ、君がエメラルドを連れて来てくれたんだね?」
とある路地裏に現れた“彼”は、アドルフを見た紫を細めながら柔らかく笑った。
「はじめまして」
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