7-3 君を想う

 気が付いた時、そこにはただ暗闇しか広がっていなかった。私はもう人間ではない。だけど、かみさまにも成れなかった。いや、正確に言えば、神様なんてあの村には最初から存在しなかったのだ。私が一体化した擬蟲神は、ただの幻想ではなく、村の血塗られた歴史そのものだった。擬羽村に刻まれたのは、裏切りから始まった呪いの連鎖――それが繰り返され、積み重ねられてきた痛みと苦しみ。

 擬蟲神は怒りであり、悲しみであり、終わることのない絶望そのものだ。全てを焼き尽くし、誰もが逃れられない祟りの象徴だった。

 私の瞳が揺れ動いているのが、自分でもわかる。けれど、その奥底には一つの確信がある――私はふうこを愛している。たとえ、どれだけの苦しみが私たちを突き刺し、呪いのように絡みついても、私はふうこを愛し続ける。

 彼女の手が震えているのも知っている。その指先には、かつてついた嘘や偽りがあるかもしれないけれど、それすらも愛している。今も心の中で私を締め付ける痛みがある。それは、過去の記憶。私たちを蝕んできた毒のような過去。それでも、その記憶は決して離れることはない。

 私は許さない。彼女の未来を奪う者たちを――誰かが彼女を傷つけ、捨てたとしても、私は認めない。ふうこを守るのは私しかいない。誰も彼女を傷つけることは許さない。

 ふうこが愛した世界、それが彼女を見捨てたとしても、私はそれを受け入れない。たとえ私たちが腐り落ち、最後には砂のように消えてしまう運命だとしても、それで構わない。ふうこのために私は咲き続ける。

 もし、このまま全てが灰に還るなら、それでもいい。私たちが灰の中で朽ち果てるとしても、もう一度、ふうこに望んでもらえるなら、それで十分。私は永遠の地獄を生き抜く覚悟だ。ふうこが私を望む限り、私は彼女と共に、その運命を歩んでいく。

 愛してる。愛してる。愛してる。私はふうこを、愛してる。

 この永遠の絶望の中で、私は永遠にあなたを愛し続ける。そしていつか、あなたの中に繋がって、もう一度生まれて、その時はきっと。こんな世界をきっと。

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