日記帳1冊目

◆はじめての魔域◆

ギルドで駆け出し向けの依頼が無いか探していると、ゴダの森で発生した小さい魔域を閉じてほしいという内容のものがあった。
最近冒険者になったらしいルスカさん、華グラさん、クピフールさんと相談をしていたら、弟が行方不明になったという方がギルドに駆け込んできた。
ちょうど行先が同じなので併せて請ける形で出発。

魔域の話はお姉やお兄から聞いていたけれど、入る時の妙な感覚は体験しないと分からないものだった。
中ではすぐ鏡のようなものに幻覚を見せられたり、同じように幻覚を見ている蛮族と戦ったり。
無事に弟さんも見つかったし魔域も閉じることができた。

普通に暮らしていたら魔域に自分から入るなんてことはほぼ無いし、私も冒険者になったんだと実感できた気がする。
弟さんにはお姉さんに心配かけちゃダメだよと諭したけど、私自身の事を棚に上げちゃったな。


◆冒険者たちのグルメ◆

毎年行われる料理コンテストに参加。主催の方は冒険者ギルドにも多額の出資をしているらしい富豪のスタッフィーさん。
話をもらったのは大会の10日前だったので、まずはギルド料理長のリックさんにレシピを教えてもらった。
その後ルスカさんに華グラさん、ちょうど居合わせたアイシャさんも誘って狩りへ。
自分でも驚くほど順調にキングルースターとワイルドボアを狩ることができて、食材の調達はバッチリ。

会場で自分たちのブースの準備をしていると、他のチームが持ってきた卵を取り返しにサンダーバードが飛んできた。
卵を返して宥めようとしたら、今度は別のチームが親鳥ごと横取りしようと乱入してきて大騒ぎに。
なんとか懲らしめてサンダーバードにも帰ってもらったけど、結構苦戦しちゃってこの日はヘトヘトだった。

そして翌日、大会の結果は準優勝! 聞けば本当に紙一重くらいだったみたい。惜しい!
私の料理はなんだか安定感がすごいらしくて、皆にもレストランみたいって言ってもらえた。
お店の工事が終わったら厨房の仕事も少し勉強しようかな。

狩りも楽しかったし、美味しいものもたくさん食べられて良かった!
教えてもらったスチールヘッドのサシミは今回作らなかったから、いつか釣って食べてみたいかも。
うっかりギルドの名前でチーム登録しちゃったけど、お姉たちにバレたりとかしてない、よね?

そういえば華グラさんはお姉さんを探しているらしい。
アイシャさんも家族についてとても強い想いがあって、どうやら同じように探している人がいるみたい。
二人の前ではあまりお姉とかお兄の話をしない方がいいかも。


◆捨身の迷宮◆

お金に困った探し屋さんからちょっとお得に情報を買い取り、初めて魔剣の迷宮に入った。
魔域へ行った時とはまた違う意味で、普通に暮らしていたら見ることのなかった不思議なものが色々あった。
皆で未知の迷宮を探索するのは緊張したけど、これぞ冒険って感じでワクワクした!

私も探索担当の一員として、結構くまなく調べていくことができたと思う。
特に宝箱が本物かどうか見破ることについてはすごく自信が付いたんだけど、今思えば断言しすぎて怪しかったかも。
そして魔物が化けていたのは宝箱じゃなくて、机とか椅子だったのにはびっくりした。
倉庫を調べる時だけ上手く行かなくてちょっと残念。
でもルスカさんがその分大活躍で、すごいお宝を見つけ出していた!
他にも色々見つかって、中でもマギトーチは皆夜目が利くからということで私がもらえることになった。

魔剣の番人は時間帯によって強さが変わるという情報を見つけて、皆で相談して一番強い状態で挑もうということに。
ただ迷宮内では今が何時か分からないので、なんと私とグレディルさんの腹時計で調整することになった!
しかもどうやらかなり合っていたみたい。新たな特技を会得してしまったかも。
奇妙な木人のような番人も無事倒して、見つけた魔剣はイスティリアさんが管理することになった。
私は前衛として動けているとは思うけど、毎回最後には伸びちゃってるから打たれ強くならないと。
明日からまた師匠に稽古つけてもらおう!


◆おいしいキノコと暴れ熊◆

最初はキノコシチューが名産品の村近くに熊が出て、キノコを採れなくなってしまったのを解決してほしいという話だった。
辿り着いたスノーヒルという村はとても寒かったけど、そのキノコシチューのおかげか皆すごく元気そうなところ。
熊に襲われたという旅人や村の人たちから話を聞いて、まずは旅人のはぐれた仲間を探しに行ったところまでは良かった。

本当はその旅人の一行が森林窃盗の類で、一度に採ってはいけない量までキノコを採ってしまっていたみたい。
それで森の守り神のような熊に襲われ怪我をして、ということだった。欲を出しちゃダメだね。

皆で森林窃盗一派を捕まえて村へ帰る途中、その守り神さんにも危うく襲われるところだった。
でもちゃんとお話したら私たちに害意が無いと分かってくれたみたいで、警句を残して消えていった。
流石に冬の熊と戦うのは自信無かったし肝が冷えたけど、そもそも熊の姿を借りた神霊の類だったのかな。

何はともあれ悪人は捕まえたし必要な分だけのキノコは採れたしで一件落着!
村で食べさせてもらったキノコシチューは温かくて美味しくて、噂通りすごく活力が湧いてきたのを感じた。
あとびっくりだったのが初めてアイシャさんの素顔を見たこと!
本人は恐縮していたけど、優しそうで綺麗なお姉さんだった!


◆ラクシアン・オオミソカ・フェスティバル2024◆

所属している〈栄誉の旅〉と、同じハーヴェスにある冒険者ギルドの〈青空の船出亭〉共同でパーティーが開かれた。
〈青空の船出亭〉といえば師匠の所属しているところ! 噂に聞くベテランの人たちと同席できたのは本当にびっくり。

パーティーもクイズ大会にバッシャーレース、それから魔動機の机から逃げ回る競技と色々あって楽しかった。
そしてなんと、総合優勝は私だった! ピカピカのメダルや賞金まで貰っちゃった。
師匠は今回参加していなかったので、次に会ったら自慢しちゃおう!

結構派手に表彰されちゃったけど、本当にお姉たちにバレていないのかちょっと心配になってきた。


◆新生ギルドと砂地の廃墟◆

新しい冒険者ギルド〈暁の剣〉のマスターさんが、お抱えの冒険者だと太刀打ちできなかったとのことで依頼をくれた。
内容は遺跡の調査中に襲撃してきたサンドウォームの撃退。実際現地ではたくさん出てきて大変だった!
なんだか大きい個体もいたし、さらにはサンドウォームが作る宝石目当てのグリフォンまで飛んできた。
アッラさんの咄嗟の判断でグリフォンの意識を逸らせて助かった。私も柔軟に対処できるようにならなくちゃ。

そういえばグリフォンと戦っている途中、不思議なことがあった。
避けられたかと思った瞬間にこの前もらったメダルが光り出して、目が眩んだのかよろけたところを攻撃できた、気がする。
かなり危ない戦いだったし渡りに船だったけど、このメダルはもしかしたらすごい魔法のアイテムなのかな。

なにはともあれ無事目的は達成して、報酬の他に豪華な食事もごちそうになっちゃった。
新人のウィル君が見ているから緊張したけど、結構カッコいいところ見せられたと思う!
いつか一緒に冒険できるといいな。
イスティリアさんは後で妹さんにこってり絞られたみたい。魔剣もただ強いばかりじゃないんだね。


◆木星の迷宮・ベトール◆

最近ちょっと噂になっている七曜の魔剣。偽の情報も多いって話だけど、まさか自分がその迷宮へ行くなんて。
元々は遺跡へ一人で行ってしまった妹さんを捜してほしいという依頼で、急いで追いかけたけど当人は戻ってくるところだった。
折角だからと遺跡の入口を見に行くことになって、地図に描いてもらった場所には立派な石碑が立っていた。
スフィアントさんが以前入ったことのある迷宮と大体同じと言っていたので入ることに。

迷宮は本物の七曜の魔剣のもの、木星の魔剣によるものだった。
どこもかしこも木でできていて、罠は多いわ毒は撒かれるわ眠らせてくるわで恐ろしかった。
直前に防具を買い足しておいて良かった。そうじゃなかったらもっと大変なことになっていた気がする。
手に入れた魔剣、もとい魔杖はルアンシーさんが保管することになった。

自分のことに必死であまり見ていられなかったけど、ツバインヒさんは踊るように攻撃を避けながら反撃していてすごかった。
私には無理かなと思ってしまうけど、避けた方がいい相手の時どうするかは考えないとね。
この辺も師匠に聞いたほうがいいのかもしれない。


◇幕間・甘い香りと贈り物◇

ギルドのヘレラさんから魔動機文明時代の行事について聞いて、知っている子に声を掛けて集まってもらった。
お世話になっている人に焼き菓子を贈るという内容で、ちょうど今くらいの時期にあったみたい。
冒険者になってからもその前もたくさんの人のお世話になったから、お返しをしようと思って。
ギルドは違うけど来てくれたユニアさんにレシピも見繕ってもらって、皆でマドレーヌを焼こうということになった。

卵を買いに行った養鶏場が魔域に飲まれたりと一悶着はあったけど、
ああ思い出しちゃった。魔域で見た料理美味しそうだったなぁ。食べちゃダメだと分かっていると余計に辛い。
とにかく無事に材料も揃って、美味しいマドレーヌをたくさん焼くことができた!
ユニアさんがまさかのパラテルルさんを連れてきてくれて、魔法で保存が効くようにしてくれた。すごい。
出来の良かったマドレーヌは丁寧にラッピングして、みんなで分け合ったり交換したりした。
今思えばみんなその場にいたから交換ですらないのにね。でもこういうのは気持ちが大事なんだと思う。

持ち帰った分は予定通り師匠とお姉とお兄、あと最近頑張ってるって聞いたウィル君に偶然会ったのであげた。
初めて会った時は魔物相手に手も足も出ない感じだったのに、ちょっと見ないうちにいい顔するようになっていた。
男子三日会わざれば、ってやつなのかな。先輩として私もしっかりやっていかなくちゃ。

と思った矢先、その直後にお姉とお兄の前でだいぶ大泣きしてしまった。
ずっと秘密にしていたし秘密にされていたけど、前から私が冒険者として活動していることに気付いていたみたい。
それこそ料理大会に出たあたりから。なのでほとんど知られていたんだね。
私がハーヴェス内に出た魔域を閉じたことで、同じく通報を受けていた二人も気付いていることを隠せなくなったと言っていた。
冒険者としてやっていけるのもここまでかと思ったけど、逆に今まで押さえつけていたことを謝られちゃった。
改めて私からも内緒で冒険者登録していたことを謝って、これからも続けて良いということになった。
最初から正直に言っていたら、もっと伸び伸びと活動できていたのかな。それとも止められていたのかな。

冒険者を続けていくにあたり、条件としてお兄からは操気の使い方を習うことになった。
相手の動きを封じて確実な攻撃をしていくのが一番生存に繋がるから、というのがお兄のやり方みたい。
お姉は私を神殿に連れて行って、少しでも守りを固められるようにと神官としての祝福と心得を説いてくれた。
認めてくれたとはいえ、二人とも私に危ない目に遭ってほしくないのは変わらないんだと思う。
それでも送り出してくれたのだから、その気持ちを裏切らないようにしないと。


◆魔剣使いの誘い◆

ジニアスタ闘技場から招待状が来たという話で盛り上がっていたので、せっかくだしと混ぜてもらった。
送り主のディセットさんは魔剣コレクターのような人で、数百本の魔剣を所持しているらしい。とんでもない数。
当人は一度手にすれば再現できるとかで現物に執着は無くて、扱える人を探しているということだった。
ちょうど闘技場の一区画に出現した魔域があるから、それを閉じることで渡すに値するか示して欲しいと言われた。
もっとも、魔域を閉じること自体はディセットさんからすれば簡単なことのようだったけど。

無事にその試練を突破して、フロスさんとノルニャルドさんが魔剣を渡された。
その後でディセットさんに直接お手合わせしてもらって改めて力を示すことになった。
流石は魔剣コレクターと言うべきかとんでもない強さで、全く歯が立たなかったけど満足はしてもらえたみたい。
顔に出さないようにはしていたつもりだけど、羨ましそうにしているのが見えちゃったのかな。
私とレティシャさんも魔剣を貰えることになった。

貰ったのは蒼炎の魔封剣というフランベルジュによく似た見た目の剣。
でも形だけじゃなく本当に炎のような魔力を帯びていて、一気に振り抜くと青い炎がぶわっと広がる!
その上私でも扱いやすいようにちょっとした封印処理までされているみたい。
こんなにぴったり望んだ一振りを貰えるなんて、最初ちょっと疑っちゃったのが申し訳ない。

ディセットさんは"蒼く輝く魔剣"を探しているけど、ジニアスタを離れるわけにいかないから代わりに探して欲しいらしい。
そのために魔剣の迷宮の情報が入ったら〈栄誉の旅〉に依頼を出してくれるとのことだった。
ここまで良くしてもらったら、協力しないわけにはいかないよね。

今回一緒に行った全員が初対面だったけど、思ったより上手く連携が取れた気がする!
私も少しずつ戦い慣れしてきたのかも。
グルアドさんがジニアスタ到着早々に毒草を食べてダウンした時はどうしようかと思ったけど。


◆ニルカンタ縫製工場◆

魔動機文明時代の遺跡調査という依頼を貰ったけど、同行者は以前スフィアントさんが話していた覗き犯のブラムさんだった。
その上ウィル君まで共犯だったなんて、不埒者。
道中片道4日もあったからだいぶ警戒したけど、ひとまず何事も起きなかったので一旦忘れることにした。
調査中まで仲間を疑っていたら命取りになるからね。

遺跡は聞いていた通り服飾工場みたいで、その割に警備の魔動機が物騒だと思ったら兵装も作っていたみたい。
それも私みたいな防御重視の相手に特化したようなものばかりで、だいぶボロボロにされちゃった。
途中でまだ使えそうな服や装飾品も手に入ったけど、私より必要そうな人にいつか渡そうと思う。
そういえばリュールさんは下着みたいな服を引き取っていたような。あれどうするんだろう。

そうそう、今回の依頼は貰った魔剣の初陣にもなった!
思った通り真っ先に振り抜くとかなり敵陣を崩せるので、これからもチャンスがあったら狙っていきたい。
それはそれとして敵の攻撃をだいぶ引きつけちゃうから、もう少し打たれ強くならないとね。
ウィル君にもだいぶ心配かけちゃって悪かったなと思う。
今回吟遊詩人のナンナさんもはじめましてだったけど、歌や演奏でサポートを受けるのは不思議な感覚だね。

あとブラムさんは2本魔剣を持っていて必要に応じて使い分けていた。
特に2本目の方はものすごく体力を使うみたいで斬りかかった後は膝が笑っていたけど、
それを補って余りあるくらい強力な攻撃を繰り出していたように見えた。
いかにも必殺技という感じで格好良かったし、私も何か決め台詞とか考えておいた方がいいのかな。

無事調査も終わって、帰りはまた念のため警戒しながらだった。
行き帰りと何も無かったし、あまり邪険にするのも二人に悪い気がするけど。
でもそういうポーズを取っておくのが大事って、お姉なら言うはず。


◆魔域に入らずんば黄金を得ず/緑◆

廃坑になった魔動機文明時代の金鉱山に魔域が発生したとのことで、片道3日かけてディガッド山脈へ。
魔域の中は期待通りどこもかしこも金だらけで、ナナセさんが壁とかからしっかり拝借していた。
私はといえば、扉に聞き耳を立てようとしてうっかり開けちゃったのは良くなかった。その分戦闘で取り返せたと思いたい。

一番奥まで進むと既に魔域の主は倒されていて、代わりに全身緑色の上位蛮族と取り巻きが待ち構えていた。
おかげで事前に聞いていた魔域の脅威度は当てにならなくなっちゃったけど、こういうこともあると勉強になったかな。
緑色の上位蛮族は多分バジリスクの類だった。確かダブグリオスと名乗っていたと思う。
オルダスカという地名についても言っていた覚えがあるけど、それって師匠が以前乗り込んだ場所だよね。
兄弟がいるみたいなことも喋っていたし、心当たりがあるか今度聞いてみようと思う。
結局その蛮族はドロシーさんの魔法で倒したと思ったのに、黒い石みたいなものを使って消えてしまった。
ドロシーさんも何だかすごく怒っていたみたいだし、因縁のある相手だったのかもしれない。

その上位蛮族を退けてさらに進むと、小さな地下室のような場所で一人のレプラカーンと会った。奇しくもこの人も緑色。
ずっと勇者を自称していたのでなんとなく察しは付いていたけど、
ティナさんの話と合わせるとやっぱり〈青空の船出亭〉の裏に住んでいると噂のメーティアさんだったみたい。
彼女も私たちが上位蛮族を倒したと知ると、すぐに魔域の核を壊してどこかへ行ってしまった。

魔域の中で貴重なお酒を入手したこともあって、ギルドで精算の後にみんなで祝勝会がてらお酒に強いか試すことになった。
のだけど、結局プリムさんとアイシャさん以外はすぐ酔っぱらってしまって大変なことになった。
かく言う私もふらふらになってしまい、なまじ記憶があるから余計に恥ずかしい。
どうやら強いとは言えないみたいだし、お酒を飲む時は少しにしておくか度数低いものにしておかなくちゃ。


◆財宝探索ゴールデン・コーヴB◆

冒険から帰ってきたら久々に風邪を引いて寝込んでしまった。
楽しくて気が付かなかったけど結構水を被ったりもしていたから、体力を使ってしまったのだと思う。
お兄にも心配かけちゃったし、反省して体調には気を付けなくちゃ。
ただたくさん寝ていたことで、ここ数日の本当に色々あったことも頭の中で多少整理できた気がする。

きっかけはブラムさんが宝の地図らしきものを見つけたと取り出したことだった。
地図というか海図だったけど、ハーヴェス南の海に印が付けられていて、マナを注ぐと描いてある絵が動くという代物。
いたずらにしては手が込んでいるしこれは何かしらがあるに違いないと、その時ギルドにいたソフィさん、ナンナさん、ブラムさんと一緒に来たフロス君と一緒に手分けして情報を集めた。
その位置には強力な野生動物が生息しているせいで手つかずの状態になっている島〈ゴールデン・コーヴ〉があるらしい。
さらに言えば伝説の海賊〈アイフリード〉の財宝があるという逸話つき。
いよいよ本物らしいとなって船を出してもらい、3日かけてその島へ向かった。

未開の島らしく誰も知らない色々な景色があって、それを皆で探検しながら進んでいくのが本当に楽しかった。
紅色の花が一面に咲いた丘、賢い猿が守っている森、エールみたいにはじける水の泉、ドラゴンの骨が転がっている火山、オウムのパティ君が案内してくれたサンゴの綺麗な洞窟。
どの場所もきっと一生忘れることは無いと思う。
島の天気は変わりやすく中々過酷な環境だったけど、ブラムさんとフロス君の提案してくれた秘密基地のおかげで安全に過ごせた。
私とブラムさんは水汲みや資材の確保、ソフィさんとナンナさんは料理、フロス君は秘密基地の手入れ。
元々ブラムさんに料理をさせないための割り振りだったけど、結果的に良い配置になったと思う。
現地で採れた食材も豊富で、身構えていた割にかなり良い生活ができた。特に夕食は美味しかったな。また食べたい。

森の主の試練を越えて、洞窟の奥ではアイフリードと同じ時を過ごしたと思われる乗組員のアンデッドが宝を守っていた。
死んでなお忠誠を誓うってどういう感覚なんだろう。本当にものすごく慕われていたんだろうな。
取り巻きは硬くて刃が通らないわ、奥にいる奴は銃を乱射してくるわでかなりの死闘になったけど、何とか倒すことができた。
何度見てもブラムさんの魔剣の威力はすごい。ただ身を削っているみたいだから少し心配にもなる。

進んだ先には実際にアイフリードの遺した金銀財宝があって、皆大喜び!
ではあったけど、その前に海図の持っていた本当の力が判明してかなり困惑した。
この世界が3つの並行世界に分かれて、それぞれの持ち主が辿り着くことでまた1つになる。
まとめるとそういう力を持っていたわけだけど、こればかりは文章にして伝えられる自信が無いかも。
俄かには信じられないけど私にも島に行っていない記憶と他の依頼を請けていた記憶があるから、多分本当のこと。
それでブラムさんを始めとした探検隊は私たち以外にも2組あって、それぞれがあの場所に辿り着いたみたい。

それを裏付けるように、帰りの船の上で他の2組が突然甲板に現れた。多分あれが並行世界の統合された瞬間なんだと思う。
さらに混乱する私たちの前に現れたのは伝説の海賊、アイフリードその人!
彼が言うには子孫の一人であるブラムさんとその仲間たち、つまり私たちの冒険を見届けたいという話だった。
あまりにも現実味が無いけど、実際に対峙した時は本能的に足がすくんで身動きが取れなかったくらいで、つまり彼の正体も言っていることもきっと正しいのだと思う。

私はお姉やお兄に憧れて追い付きたくて、同じ景色を見たかったから師匠にお願いして冒険者になった。
途方もない目標だと思っていたけど、一方で上限を自分で決めてしまっていたのかもしれない。
もっともっと先の、誰も見たことのない世界への足掛かりが目の前にあるというのは、純粋に魅力的な話だった。
いつかお姉たちに追い付いて追い越して、その向こうの未知の世界を見ることができるのかな。
きっとそうなれるように頑張っていきたい。
とはいえ風邪の看病をしてもらっているようではまだまだなんだけど。

そういえば寝込んでいる間にソフィさんが訪ねて来て、試練のために切り出した竜の骨をペンダントに加工したものをくれた。
3つの世界が統合されたと聞いて私たちの秘密基地が無くなっちゃうんじゃないかと心配したけど、このペンダントがあるということは多分大丈夫なんだと思う。
他の2組は丘の花も竜の骨も違う色をしていたと話していたし、この蒼い骨も紅い花の色も、裏にみちみちに彫られた「†最強ブラム・シークレット・ベース†」の名前も私たちだけの思い出で、それが嘘じゃないって分かるのは嬉しい。
秘密基地の名前はちょっと恥ずかしいけど。
船じゃないと行けないからすぐにというのは難しいけど、またいつか皆と一緒にあの島へ行きたい。
秘密基地も補修しないといけないしね。また皆の身長を刻んだりとかもできたらいいな。


あとは、ブラムさんのこと。
第一印象こそ最悪だったけど、何度か会ううちに気が合うタイプだなとは思っていた。
それが今回一緒に島の探検をしたり剣の腕を競ったり、背中を預けて戦ったりしたことで、
認めたくないけど、本当に悔しいけど、異性としていいなって思った。
でも調子に乗るから本人には言ってあげない。
それに、あんな口の軽い男に惚れるなんて、自分でも恥ずかしくて人に言えたものじゃない。
せめてあの軽口が多少どうにかなってくれればなぁ。

ルアンシーさんとかどう見ても気があるみたいだし、私みたいに言ってないだけという人も他にいるかもしれない。
あまりその辺を拗らせて連携取れなくなるのも良くないよね。どうしようかな。

なんだか熱上がってきちゃったかも。
お姉が帰ってくるまでに治さないとだし、もう一回横になろう。


夢にまで出てくるなんて。

決めた、ブラムさんとまた一騎打ちして、私が勝ったらその時に伝えることにしよう。
それまではいつも通りの私。多分大丈夫なはず。


◆天空塔クーラカンリ◆

ジョーさんに呼び出されたと思ったら、マギテック協会から名指しの依頼だった。
呼ばれたのはブラムさん、ルアンシーさん、そして私。びっくりしたけど名誉なことで嬉しかった。
調査予定だった魔動機文明時代の遺跡が丸ごと、サンドキア方面へ浮き上がったので調査へ行ってほしいとのこと。
飛空艇にも乗れる滅多にないチャンスと思って二つ返事で引き受けた。あと、ブラムさんとの再戦の機会としても。

飛空艇ではルアンシーさんのすっごく美味しいお弁当を食べたり、乗り物酔いのブラムさんを介抱したり。
綺麗で快適な客室に、窓から見える地上の景色、手が届きそうな距離の雲。
ワクワクすることだらけで行きの7日間はあっという間に過ぎた。
降り立った浮遊島は結構な広さの自然と大きな塔のような遺跡があって、さながら新たな宝島に来たような感覚だった。
別のチームとはいえルアンシーさんも同じ経験をしていたから、島の探索や拠点の設営についてはとてもスムーズ。
現地で食材を確保して調理したり、そういえば罠をかけたり魚を獲ったりもしたなぁ。
違ったところと言えば今度は雲の上だからずっと天気が良くて、夜はいつもよりさらに星が近かったことかな。
高いところだし寒いかもと思って防寒着も用意していたけど、思ったより気温も高かったのでふかふかの布団になった。

塔のような遺跡は五階建てで、大きく分ければ各階が2つのブロックに分けられそうだった。
その単位で調査を行いつつ、先日のソフィさんを見習って詳細な見取り図を作成しながら進んでいった。
作図に関しては私だけだと手が回らない部分もあって、かなりルアンシーさん頼りになっちゃったかも。
でもそのおかげで次の階の目安も付いたりして、安全に調査を進められたと思う。
用意された期間は1週間だったけど、結果的に6日目には全体の調査を完了することができた。
後日周辺の地図まで全部提出したら、そこまでは想定していなかったらしくて驚かれた。

遺跡の中では以前見たことのあるサンドウォームや、ルアンシーさんが以前遭遇したという魔動機と遭遇した。
それこそ宝島へ行く前にあの魔動機を撃破したらしいんだけど、一体どうやって。
ここしばらくのルアンシーさんは以前のおどおどした感じが抜けて肝が据わっているなと思ったけど、
多分聞いただけでは想像できないような修羅場を潜り抜けて来たんだと思う。それくらいの相手だったから。
最上階の最後の区画にはまだ動く状態の飛行用魔動機が残っていて、それだけでも大発見と言える成果。
ただそれとは別に真新しい大きな羽根も落ちていたのが問題で、危惧した通りガルーダのものだった。

帰ってきた今でも半分信じられないけど、私たちは魔動機を飛ばすことでガルーダを呼び寄せて、そして返り討ちにした。
ガルーダを、たったの3人で。それも空中という相手の土俵で倒したんだ。
思い返すと怖くなってくるのに、私は驚くほど冷静だった。多分ブラムさんもそう。
ルアンシーさんは青くなりながらも、周囲の環境からガルーダの襲撃ルートを予測していた。そしてその予測は完璧だった。
飛んでくるガルーダが、そんなはずはないのに、すごくゆっくりとした動きに見えて。
気が付けば相手が動くより先に私の剣が、それも思った通りに当たっていた。
先手を取ったことがものすごく癪に障ったらしくて、ずっと狙われることになってしまったけど。
それでも最後まで倒れることなく立っていられた。ルアンシーさんには本当に感謝しないとだね。

これも後から聞いたけど、私たちの倒したガルーダは長くサンドキアを悩ませていた名のある蛮族だったみたい。
再び飛空艇に乗って帰った私たちを待っていたのは、派手な歓待と「|空墜《そらお》とし」の称号だった。
ちょっと照れくささはあるけど、私も称号や二つ名で呼ばれるような存在になったんだって。
依頼を完遂どころか上位蛮族の討伐まで果たしたと聞いて、ジョーさんも鼻が高そうだった。


貰った依頼やその報告までについて書くなら日記は以上だったけど、今回の旅はそれだけじゃなかった。
最初に書いた通り、ブラムさんとしばらくの間同行するなら何度かは一騎打ちの模擬戦を挑めるかもしれないと思っていた。
例え1回目で勝てなくても、その内容から作戦を組み立て直して、何回か挑むこともできるはず。
今回の旅で敵わなくても次回に向けてきっと良い経験を積めるはず。それでいつかに繋ぐことができればと。

そう思っていたら、叶っちゃった。現地1日目の夜で。
思い描いていた理想的な立ち回りをして、数回の攻防の末に今度はブラムさんの木刀が地面に落ちていた。
確かに、確かにね、勝つための努力もしたし、特訓もした。ブラムさんがどう動いたらどう対処するか、ずっと考えていた。
でも、その事ばかり考えていて「勝ったら自分の口から言う」その先のことを何も考えてなかった。
頑張って平静を装ったけど頭の中はいっぱいいっぱいで、ドラマチックな台詞の用意なんて無くて。
本当にそのままのことを、自分の気持ちを言葉にして声に出すので精一杯だった。

ブラムさんは私の話を聞いてくれた。
私は翌日からの調査に影響しないように、という言い訳で、本当は返事が怖くて話を切り上げてしまった。
自分で決めていたことを伝えるだけ伝えて、それでブラムさんが困らないか考えもしないで。
調査が終わったら続きの話をしたいと先延ばしにしたのに、ブラムさんは感謝と私の勇気を讃える言葉をくれた。

ルアンシーさんの想いも知っていたから、彼女に聞こえないように隠そうともした。
でもそうはならなかった。何を話していたのかも、隠そうとしたことだってルアンシーさんには全て筒抜けだった。
ルアンシーさんの声が少し震えているのを聞いて、私が何をしてしまったのか思い知らされた。

結果的に、ではあるけど、ルアンシーさんは私が思っているよりも遥かに強い人だった。
2日目の夕食の準備をしながら前日の話になって、そこで考えもしなかったことを言われた。
私たちのどちらかじゃなく、両方を選んでもらうのでもいい。最初は耳を疑ったけど、ルアンシーさんの目は真剣だった。
今正直に書いてしまえば、その話を聞いて私は動揺しながらも安心というか、助かったと思っていた。
先に動いておきながら、ルアンシーさんと奪い合ったり、険悪になるのは嫌だなと勝手なことを考えて。
いっそのこと二人とも振られてしまうのがお互いのために、違うね、私のために良いのかなとまで思っていたのに。
もしかしたらそんな私の独りよがりまでお見通しだったのかもしれない。

現地で最後の夜、夕食の後でルアンシーさんは改まって話を切り出した。
私は席を立とうとしたけど、同席して聞いて欲しいと言われたので覚悟して残った。
勢いに任せるしかなかった私と違いルアンシーさんは丁寧に想いを伝えていて、悔しかった。

途中の4日目だったかな。
泉で七曜の魔剣に対応した指輪を見つけた時に、二人がそれぞれ指輪を付けてお揃いだとか
恋人に間違われるだとか話しているのを聞いて、私は、お似合いの二人だなって、思ってしまっていた。
その時は急いで魚釣りの話を振って気にしないようにしていたけど、今思えば酷いことをしちゃった。

想いを伝えるルアンシーさんを見ているとその時のことが思い出されて、かなり弱っていたんだと思う。
その後ブラムさんの身の上話を聞いている途中から色々な感情が沸き上がってきて、大泣きしてしまった。
私は伝えたいことがたくさんあったのに、泣きながらで全部しどろもどろになってしまって、
そんな私の発言も全部ルアンシーさんが上手く拾ってくれて、敵わないなぁってまた泣いていた。

だから2日目に私に話していたことをルアンシーさんが本当に口に出した時、一気に目が覚めた。
ましてやブラムさんがそれを受け入れてくれるとも思っていなかったから、かなり挙動不審だったと思う。
とにかくブラムさんは私たち二人ともを取ると決めてくれて、私も同意する形になった。
文章で書くとすごいな。お姉が後でこの話をちゃんと聞いてくれたのも奇跡的な気がする。

ブラムさんの過去については、なんだか失礼な気がするからここに細かく書くのはやめておこうと思う。
私とルアンシーさんが代わりになれる話ではないから、全く別の存在として支えていきたい。
今回の旅で自分の甘い部分とか幼い部分をたくさん自覚することができたから、まずはそこを直していけたらいいな。
ブラムさんも勇気を出して決めてくれたんだから、後悔させるような存在になっちゃダメだ。


気が付いたらこの日記帳も最後のページになっちゃった。最近色々あって長かったもんね。
帰ってきてからも書いておいた方が良いと思うことがいくつかあったから、2冊目の日記帳を買いに行こう。

あと残りの行で何を書こうと思ったら、ブラムさんに貰ったチョコレートが机の上にあった。
1日目の模擬戦の後に私の勇気を讃えてとくれた物だけど、そんなポンと渡していい品物じゃないことは一目見て分かった。
普段女心なんて全く分からないみたいな言動のくせに、妙なところでちゃんとしているんだから。


ブラムさん。
恥ずかしすぎて言っていないけど、帰りの飛空艇の中でまたあなたの夢を見たよ。
あなたが立ち上げた支部で、私が受付をやっている夢。
書類の山を相手にぐったりしているあなたを私がからかって、そこまでは前に見た夢と一緒だったけど。
奥の扉を開けて料理を持ってきたのは、ルアンシーさんだった。
いつかそんな日が来るまで、私もルアンシーさんも頑張るから。
だから私たちのこと、これからもよろしくお願いします。
大好きです。



本に鍵をかけるためのベルトも買わなきゃ。

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