2023/10/22 ワンドロ

「上からくるぞ、気をつけろ!」

 シンの鬼気迫る、だがどこか笑いが滲む声にとあるクソゲーがよぎったがそれはともかく。頭上に視線を向ければ上空から落下してくる魔物の姿が見えた。

「ムササビ!?」
「いや、モモンガ?!」
「どっちでもいいでし!」

 上空からの降下作戦をしてきたのは、モフモフした生き物だった。ただしサイズは大型犬ほどあるし、鋭い爪と牙を持っていた凶悪な面構えをしていたがな。レオが叫んだようにムササビだかモモンガだかをイメージした魔物だろう。

「ちなみに違いって何?!」
「どっちもリス科だったはず。違いはサイズとか、いろいろあるが、だいたい一緒だ」

 お茶漬の問いに返す。厳密に言えば違うが、素人に違いは分からん。モンスター名は『飛び付きムササビ』なのでムササビなんだろう。っていう程度だ。
 上空から頭にタックルしては、素早く地面に降りて気を駆け上り、また上空から襲撃してくる。人間ていうのは頭上の敵には結構無力だ。

「この! ちょこまかと!!」

 さっきからシンが飛びかかられまくっている。一番背が高いからか、リスといい、げっ歯類におちょくられる運命にあるのか。どっちだ。ちょっとうらやましい。

「ホムラ、うらやましがってないで!」

 おっと、ペテロにばれた。そろそろまじめにやらねば。

「【範囲魔法】【重魔法】『グラビティ・ミリオン』!」
「じゅい!」
「ぢっ!!」

 可愛くない鳴き声を上げて『飛び付きムササビ』が落下して地面でもがく。『グラビティ・ミリオン』は飛行している敵をたたき落とす効果があり、ムササビにも効いたようだ。飛ばなくなってしまえばあとは簡単な話。そのあとすぐに討伐が終わった。

「終わった~」
「しかし、空飛ぶ奇妙なモンスターがムササビだったとはね」
「江戸時代の妖怪、|野衾《ノブスマ》が実はムササビだったんじゃないかって話もあるしね」
「あぁ、長い年月を経たコウモリが妖怪化したとかも言われている。猫の血を吸うんだっけか」
「そうそう」
「あ!」

 クエストを受注した町に戻る途中、私とお茶漬がそんな話をしていると不意にペテロが声を上げた。振り返ると自分でも驚いたように口元を押さえたペテロ。何かを考えているような様子だ。

「ペテロ?」
「どうしたでし?」
「いや、ちょっと」

 首をかしげる私たちに口ごもるペテロ。「もしかして、受注中の謎解きクエストのヒントになった?」「あ~扶桑か?」と、それぞれ問えばペテロが頷く。ならばそれ以上聞くわけにもいかず、再び歩き出す。

『妖怪も出るのか、扶桑』
『まぁ鬼もその一種だと思えば』
『確かに』

 個人チャットでそんな会話をしながら街に戻り、報酬を受け取るとペテロは「続きをしてくる」と言ってパーティを抜けた。EP回復用に慌てて料理を渡した。だいぶ急いでいる様子だったので、何かでつまっていたのかもしれない。

「珍しいでしねぇ」
「確かに。で、これからどうする?」
「ほかにもいくつかクエストあるみたいだし、時間潰しにやろうか」
「さんせーい!」

 せっかくここまで来たんだし。と言うお茶漬の言葉に賛成し、いくつかのお使いクエストをこなすのだった。

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